Countering Fear Renewal: Changes in the UCS Representation Generalize Across Contexts 2014 Behavior Therapy
不安障害の治療後において、恐怖はしばしば復活する。アナログ研究では、消去文脈の外では条件刺激は消去記憶よりも獲得記憶を活性させる。条件づけ理論は恐怖は、無条件刺激の主観的コストの減少の後に、CS-UCS連合の変化なしに低減すると仮定されている。我々は、恐怖の減少がUCS脱価値化を通し、文脈間に般化して生じると仮定した。健常学生に文脈AにおいてCSと100dbのホワイトノイズのUCSを提示した。一つのグループは条件づけの後にUCS暴露を行い、UCSの強度を減少させた。他のグループはUCSを同じ強度で提示させた。2つのグループはfiller課題を行った。全ての軍において文脈Bでの消去を行い、文脈Aでテストした。CSの提示中に、被験者はUCSの予期とコストを評定した。結果からは、消去文脈からテストに移行するとUCSの予期は増加した。対照的にUCSの脱価値化を行うと、UCSのコストの低減が文脈の変化にもかかわらず維持されていた。これらの結果はUCS脱価値化が恐怖の復元を減少させる可能性を示唆している
題名通りの内容かと言われるとそうでもない気がする。ただ、UCSが音でもいいことがまた確認できたのが自分にとっては価値がある研究。
2014年11月1日土曜日
2014年7月4日金曜日
健常成人における感情のラベルづけと認知的再評価の共通および異なる神経基盤
The common and distinct neural bases of affect labeling and reappraisal in healthy adults. 2014 Frontiers in Psychology
感情制御は意識的で意図的な感情の変化に対する試みとして一般的に特徴付けられている。例えば認知的再評価を通して特定の刺激や状況をより脅威的でないように再解釈することによって感情的反応を提言しようとする。しかし、感情制御の方略の中には意図的でなく偶発的な物があるというエビデンスが集まりつつあり、それは情動調整は明確なゴールではなく結果であることを意味している。たとえば、感情的ラベルづけは外的な刺激や自分の感情的反応に対して意図的な感情反応の変化を目的としない言語的なラベルづけをするだけであるが、それは感情的反応を減少させることが神経レベルでも実験レベルでも示されている。この意図的な感情制御方略と無意図的な感情制御方略が共に辺縁系と感情反応を提言するが直接これらの方略の神経メカニズムを比較した研究は乏しい。本研究では、我々は意図的な感情制御と無意図的な感情制御を検討し、事物の命名、感情のラベルづけ、認知的再評価が共通もしくは異なる神経反応や自己報告反応を嫌悪画像に対して示すかを単なる観察条件と比較して健常成人に現れるかを検討した。感情のラベルづけと認知的再評価は前頭のいくつかの制御に関わる領域の活動を共通してしめし、感情のラベルづけはこれらの領域においてはより強い活動さえ示した。扁桃体はどの方略でも共通して減少した。感情のラベルづけと認知的再評価は自己報告の現象と関連していた。これらの結果は感情のラベルづけと認知的再評価が共通の神経認知的メカニズムを持つことを指摘しており、意図的な感情制御と無意図的な感情制御が共通した神経プロセスを制御することを支持している
つい忘れてしまう。
感情のラベルづけと認知的再評価に神経基盤の差があまりないなら、認知的再評価はむしろ単なる感情のラベルづけの延長なのかもしれない。しかし、行動指標は認知的再評価の方が効果が大きい。試してみたいなあ。
感情制御は意識的で意図的な感情の変化に対する試みとして一般的に特徴付けられている。例えば認知的再評価を通して特定の刺激や状況をより脅威的でないように再解釈することによって感情的反応を提言しようとする。しかし、感情制御の方略の中には意図的でなく偶発的な物があるというエビデンスが集まりつつあり、それは情動調整は明確なゴールではなく結果であることを意味している。たとえば、感情的ラベルづけは外的な刺激や自分の感情的反応に対して意図的な感情反応の変化を目的としない言語的なラベルづけをするだけであるが、それは感情的反応を減少させることが神経レベルでも実験レベルでも示されている。この意図的な感情制御方略と無意図的な感情制御方略が共に辺縁系と感情反応を提言するが直接これらの方略の神経メカニズムを比較した研究は乏しい。本研究では、我々は意図的な感情制御と無意図的な感情制御を検討し、事物の命名、感情のラベルづけ、認知的再評価が共通もしくは異なる神経反応や自己報告反応を嫌悪画像に対して示すかを単なる観察条件と比較して健常成人に現れるかを検討した。感情のラベルづけと認知的再評価は前頭のいくつかの制御に関わる領域の活動を共通してしめし、感情のラベルづけはこれらの領域においてはより強い活動さえ示した。扁桃体はどの方略でも共通して減少した。感情のラベルづけと認知的再評価は自己報告の現象と関連していた。これらの結果は感情のラベルづけと認知的再評価が共通の神経認知的メカニズムを持つことを指摘しており、意図的な感情制御と無意図的な感情制御が共通した神経プロセスを制御することを支持している
つい忘れてしまう。
感情のラベルづけと認知的再評価に神経基盤の差があまりないなら、認知的再評価はむしろ単なる感情のラベルづけの延長なのかもしれない。しかし、行動指標は認知的再評価の方が効果が大きい。試してみたいなあ。
2014年4月19日土曜日
疼痛の認識における心理的要因の影響
Impact of Psychological Factors in the Experience of Pain 2011 Physical Therapy
この論文では、基礎的な心理的過程がどのように身体治療の理論的モデルに取り入れられるかに焦点を当てて疼痛の持続と障害の発展における心理的要因についてレビューする。
そのために疼痛の経験と関連する重要な心理的要因を要約し、科学的知見において疼痛の有力なモデルの中にそれらがどのように統合されるかの外観を提示する。疼痛は持続的な問題と治療に影響する明確な感情的かつ行動的な結果である。しかし、心理適用要因は身体治療において日常的には査定されておらず、治療の促進とは十分に適用されていない。科学的なエビデンスのレビューに基づいて臨床実践に有用であろう10個の原則を提示する。心理学的家庭は疼痛の体験や治療予後に影響するので、心理的原則を身体治療に統合することは予後の向上に潜在的な価値を持つと思われる。
疼痛のCBTにおける御大であるLintonのレビューは非常に整理されていた。今年は疼痛の方ももう少し本気にならなければ。
この論文では、基礎的な心理的過程がどのように身体治療の理論的モデルに取り入れられるかに焦点を当てて疼痛の持続と障害の発展における心理的要因についてレビューする。
そのために疼痛の経験と関連する重要な心理的要因を要約し、科学的知見において疼痛の有力なモデルの中にそれらがどのように統合されるかの外観を提示する。疼痛は持続的な問題と治療に影響する明確な感情的かつ行動的な結果である。しかし、心理適用要因は身体治療において日常的には査定されておらず、治療の促進とは十分に適用されていない。科学的なエビデンスのレビューに基づいて臨床実践に有用であろう10個の原則を提示する。心理学的家庭は疼痛の体験や治療予後に影響するので、心理的原則を身体治療に統合することは予後の向上に潜在的な価値を持つと思われる。
疼痛のCBTにおける御大であるLintonのレビューは非常に整理されていた。今年は疼痛の方ももう少し本気にならなければ。
2014年4月11日金曜日
未治療のうつ病におけるネガティブ情動の再評価の最中の脳活動と主観的体験の調整の成功のエビデンス
Evidence of successful modulation of brain activation and subjective experience during reappraisal of negative emotion in unmedicated depression. 2013 Psychiatry Research: Neuroimaging
未治療のうつ病患者12名と対照健常者24名においてネガティブ感情の認知的制御を検証するためにfMRIを用いた。研究参加者はネガティブ画像や中性画像の自己関連づけを増加(real condition)させたり低減(photo condition)させたりしている際にfMRIを行った。受動的な観察(look condition)はベースラインとして用いた。再評価はうつ病に強く影響されなかった。両群共に写真の記憶自体は良く保持されていた。グループ間では、real conditionにおいてdLPFC、前帯状回、頭頂葉、尾状核、扁桃体の活動増加が見られた。うつ病の重症度はネガティヴに対する再評価においてDLPFC、扁桃体、小脳の活動と負の相関が見られた。群間差の欠如はうつ病患者は明確な教示であればネガティブ画像による脳活動と主観的体験を調整できることを示唆する。しかし、うつ病の重症度と再評価における脳活動の負の関係性はより重症のうつ病患者と多くのサンプルであれば群間差を見いだせるであろうことを示している。
思ったより面白くなかった。
未治療のうつ病患者12名と対照健常者24名においてネガティブ感情の認知的制御を検証するためにfMRIを用いた。研究参加者はネガティブ画像や中性画像の自己関連づけを増加(real condition)させたり低減(photo condition)させたりしている際にfMRIを行った。受動的な観察(look condition)はベースラインとして用いた。再評価はうつ病に強く影響されなかった。両群共に写真の記憶自体は良く保持されていた。グループ間では、real conditionにおいてdLPFC、前帯状回、頭頂葉、尾状核、扁桃体の活動増加が見られた。うつ病の重症度はネガティヴに対する再評価においてDLPFC、扁桃体、小脳の活動と負の相関が見られた。群間差の欠如はうつ病患者は明確な教示であればネガティブ画像による脳活動と主観的体験を調整できることを示唆する。しかし、うつ病の重症度と再評価における脳活動の負の関係性はより重症のうつ病患者と多くのサンプルであれば群間差を見いだせるであろうことを示している。
思ったより面白くなかった。
2014年4月4日金曜日
再評価とマインドフルネス:主観的効果と認知的コストの比較
Reappraisal and mindfulness: A comparison of subjective effects and cognitive costs 2013 Behaviour research and therapy 51 899-904
本研究はマインドフルネスと再評価の悲しみ気分に対する効果を比較し、さらにマインドフルネス特性と再評価の習慣的使用が悲しみ気分に対するこれらの方略の効果を媒介するかを検討した。また、この研究ではこれらの方略の認知資源の比較を行った。129名の被験者は自伝的記憶の想起による悲しみ気分誘導前にマインドフルネスか再評価か何も行わないかに無作為に割り付けられた。結果からマインドフルネスと再評価は悲しみ気分に対して同程度の効果が見られた。再評価はマインドフルネスと比較して、事後のストループテストに置いて干渉が増加しており、認知的資源の剥奪が見られた。マインドフルネス特性は、再評価の習慣的使用と異なり、どの群に置いても悲しみの低減と関連していた。この研究から,マインドフルネスと再評価は同程度に有効だが認知的コストが異なることが示唆された。
すっかり忘れていた。
この研究ではストループテストだが、もう少し認知的コストの個別要素について調べても面白いかもしれない。
マインドフルネスは精神的に疲れないということだな。ただ、やった後はともかくとしてやりやすさとしては再評価とマインドフルネスのどちらがやりやすいのだろう
本研究はマインドフルネスと再評価の悲しみ気分に対する効果を比較し、さらにマインドフルネス特性と再評価の習慣的使用が悲しみ気分に対するこれらの方略の効果を媒介するかを検討した。また、この研究ではこれらの方略の認知資源の比較を行った。129名の被験者は自伝的記憶の想起による悲しみ気分誘導前にマインドフルネスか再評価か何も行わないかに無作為に割り付けられた。結果からマインドフルネスと再評価は悲しみ気分に対して同程度の効果が見られた。再評価はマインドフルネスと比較して、事後のストループテストに置いて干渉が増加しており、認知的資源の剥奪が見られた。マインドフルネス特性は、再評価の習慣的使用と異なり、どの群に置いても悲しみの低減と関連していた。この研究から,マインドフルネスと再評価は同程度に有効だが認知的コストが異なることが示唆された。
すっかり忘れていた。
この研究ではストループテストだが、もう少し認知的コストの個別要素について調べても面白いかもしれない。
マインドフルネスは精神的に疲れないということだな。ただ、やった後はともかくとしてやりやすさとしては再評価とマインドフルネスのどちらがやりやすいのだろう
2014年1月11日土曜日
ベクションは自伝的エピソード記憶の感情価を調整する
Vection modulates emotional valence of autobiographical episodic memories 2012 Cognition
我々は、上下に移動する刺激によって喚起された自己移動感覚(ベクション)が自伝的エピソード記憶の感情価を変容するかどうかを検討した。我々は被験者が上に移動するベクションを知覚したときによりポジティブなエピソードを想起することを見いだした。しかし、ベクション効果が小さい、もしくは生じないような小さい刺激もしくは固定して見える刺激の場合は感情価に影響を与えないことが見いだされた。我々はベクションによる感情価の調整は気分一致効果によって生じていると推測した。この仮説を検証するために、ベクションの方向が被験者の気分に影響するかを検討した。結果として、上へのベクションは気分にポジティブな影響を与えた。この結果は自己移動感覚の方向と自伝的エピソード記憶の感情価の間に緊密な関係性があることを示しており、ベクションに伴う気分の変化が想起される記憶の感情価の調整の背景にあることを示している。
面白い。ベクション効果を生起させる刺激を上手く作れれば、色々と応用できそうだ。新しい気分誘導方法としてとか、外的刺激によって記憶以外の情動価が変容するかとか。
我々は、上下に移動する刺激によって喚起された自己移動感覚(ベクション)が自伝的エピソード記憶の感情価を変容するかどうかを検討した。我々は被験者が上に移動するベクションを知覚したときによりポジティブなエピソードを想起することを見いだした。しかし、ベクション効果が小さい、もしくは生じないような小さい刺激もしくは固定して見える刺激の場合は感情価に影響を与えないことが見いだされた。我々はベクションによる感情価の調整は気分一致効果によって生じていると推測した。この仮説を検証するために、ベクションの方向が被験者の気分に影響するかを検討した。結果として、上へのベクションは気分にポジティブな影響を与えた。この結果は自己移動感覚の方向と自伝的エピソード記憶の感情価の間に緊密な関係性があることを示しており、ベクションに伴う気分の変化が想起される記憶の感情価の調整の背景にあることを示している。
面白い。ベクション効果を生起させる刺激を上手く作れれば、色々と応用できそうだ。新しい気分誘導方法としてとか、外的刺激によって記憶以外の情動価が変容するかとか。
2013年12月26日木曜日
電気痙攣療法は人におけるエピソード記憶の再固定化を阻害する
An electroconvulsive therapy procedure impairs reconsolidation of episodic memories in humans. 2013 Nature neuroscience
動物における記憶の再固定化の証拠が蓄積しているにもかかわらず、人においては特にエピソード記憶に関する証拠は限定的だ。被験者内操作を用いて、我々はうつ病患者における記憶の最活性化のあとの電気痙攣療法の適用が時間依存的な情動的エピソードの最活性化を阻害し、最活性化していない記憶では阻害されない事を見いだした。我々の結果は人の情動的エピソード記憶の再固定化の証拠を提供する
ネットでも話題になっていた論文が元同僚のおかげで手に入った。興味深いのでもう少し内容に踏み込んで書き残しておこう
動物実験では盛んに研究されている記憶の再固定化だが、記憶の再固定化現象に3つの原則があると論文にはある
原則1:固定化された記憶は、reminder cueによって再活性化される事
原則2:固定化された記憶を変容させる手続きは再活性化の後に行われるのであり、前ではあり得ない
原則3:再固定化は時間依存的プロセスであり、それゆえに再固定化の発生を容認する時間枠に影響される-通常時間枠は再活性の24時間後であり即時ではない
しかし、この原則は動物研究であれば容易に守れるが人を対象とした研究では原則2と原則3は守られておらず、そのために再固定化という解釈ではなく、二次的な記憶符号化や記憶起源の混乱等の他の解釈を可能にする。
この問題を回避するためにECTを用いて記憶の再固定化を操作しようとするのがこの研究の主目的である。もともとECTは動物などでも健忘症を生じさせる事が分かっている。そのメカニズムはよくわかっていないが、タンパク合成阻害薬と同様の作用があるなら記憶の再活性化の後のECTは時間依存的な記憶障害(要は即時の記憶障害ではなく24時間後に記憶障害をもたらすということか)をもたらすと予測できる。
そこで、ECTを行う事が決まっていたうつ病患者を対象にECTがエピソード記憶の阻害をもたらすかを検討する事にした。
被験者:42名のうつ病患者は、A:記憶の再活性化の直後にECTを受け、記憶のテストを24時間後に行う群;B:記憶の再活性化の直後にECTを受け、記憶のテストをECT直後に行う群;C:記憶の再活性化の後にECTを行わず、記憶のテストを24時間後に行う群の3つに振り分けられた。
学習セッション:被験者は感情的に不快な画像スライドの系列2つを目視した。一つの系列はネガティブなCahill story(内容はよくわからないが、子どもが事故にあって何とからしい)を音声で流しながら目視した。もう一つの系列は情動価や覚醒度、文の長さなどをCahill storyと同等に調整したネガティブなnew storyを音声で流しながら目視した。
再活性化セッション:再固定化を促進するための再活性化手続きを学習セッションの1週間後に行った。再活性化は学習セッションの2つのスライド系列のうち一つにした。被験者は学習したスライド系列の最初の1スライドだけを見た。しかし、そのスライドの部分はチェックボード模様でマスクされていた。被験者は隠されている部分について3つの質問に自由回答した。自由回答できない場合は強制2択によって回答させた。再活性化における回答は点数化されたが、群間に差はなかった
ECT:A、B群ともに再活性化の後に通常のECTをおこなった
DSST:WAISの符号化のように記号に対応した数字を記入する課題を学習セッションの前に行って、群間の認知機能の差を検討した。群間差がありそうなものだが無かった。
複数選択記憶課題:記憶の再固定化のテスト。スライド系列1枚に対して3−5の選択問題を被験者に課した。最初の1枚目は再活性化で用いているので解析から除外している。質問の内容の例は、問“2枚目のスライドに誰がいたか” a母親 b息子 c母親と息子 d母親と息子と他の誰か、と言った感じ。1枚ずつ行うため課題時間は1時間が必要だった。これはひどい。A,C群は再活性化の24時間後に実施し、 BはECTの直後に行った。質問に対する正答数を記憶のスコアとした。
結果:再活性化を行ったスライド系列の複数選択記憶課題における記憶スコアはA群ではECTにより再活性化なしより低下した。B群では再活性化の有無の差はなく、C群では再活性化有りのスライドの記憶スコアが高かった。
ちなみに、A群における再活性化による再固定化の阻害は、情動的なスライドの部分だけでなく非情動的なスライドの部分でも生じた。
細かい部分はともかく概要は分かった。面白い。再固定化の原則に照らせばScillerの論文に穴が有る事も分かった(どれくらい一般化された原則なのかはわからん)。ECT以外の方法で何とか結果を再現できないか。再現できたらすごいのだが。
動物における記憶の再固定化の証拠が蓄積しているにもかかわらず、人においては特にエピソード記憶に関する証拠は限定的だ。被験者内操作を用いて、我々はうつ病患者における記憶の最活性化のあとの電気痙攣療法の適用が時間依存的な情動的エピソードの最活性化を阻害し、最活性化していない記憶では阻害されない事を見いだした。我々の結果は人の情動的エピソード記憶の再固定化の証拠を提供する
ネットでも話題になっていた論文が元同僚のおかげで手に入った。興味深いのでもう少し内容に踏み込んで書き残しておこう
動物実験では盛んに研究されている記憶の再固定化だが、記憶の再固定化現象に3つの原則があると論文にはある
原則1:固定化された記憶は、reminder cueによって再活性化される事
原則2:固定化された記憶を変容させる手続きは再活性化の後に行われるのであり、前ではあり得ない
原則3:再固定化は時間依存的プロセスであり、それゆえに再固定化の発生を容認する時間枠に影響される-通常時間枠は再活性の24時間後であり即時ではない
しかし、この原則は動物研究であれば容易に守れるが人を対象とした研究では原則2と原則3は守られておらず、そのために再固定化という解釈ではなく、二次的な記憶符号化や記憶起源の混乱等の他の解釈を可能にする。
この問題を回避するためにECTを用いて記憶の再固定化を操作しようとするのがこの研究の主目的である。もともとECTは動物などでも健忘症を生じさせる事が分かっている。そのメカニズムはよくわかっていないが、タンパク合成阻害薬と同様の作用があるなら記憶の再活性化の後のECTは時間依存的な記憶障害(要は即時の記憶障害ではなく24時間後に記憶障害をもたらすということか)をもたらすと予測できる。
そこで、ECTを行う事が決まっていたうつ病患者を対象にECTがエピソード記憶の阻害をもたらすかを検討する事にした。
被験者:42名のうつ病患者は、A:記憶の再活性化の直後にECTを受け、記憶のテストを24時間後に行う群;B:記憶の再活性化の直後にECTを受け、記憶のテストをECT直後に行う群;C:記憶の再活性化の後にECTを行わず、記憶のテストを24時間後に行う群の3つに振り分けられた。
学習セッション:被験者は感情的に不快な画像スライドの系列2つを目視した。一つの系列はネガティブなCahill story(内容はよくわからないが、子どもが事故にあって何とからしい)を音声で流しながら目視した。もう一つの系列は情動価や覚醒度、文の長さなどをCahill storyと同等に調整したネガティブなnew storyを音声で流しながら目視した。
再活性化セッション:再固定化を促進するための再活性化手続きを学習セッションの1週間後に行った。再活性化は学習セッションの2つのスライド系列のうち一つにした。被験者は学習したスライド系列の最初の1スライドだけを見た。しかし、そのスライドの部分はチェックボード模様でマスクされていた。被験者は隠されている部分について3つの質問に自由回答した。自由回答できない場合は強制2択によって回答させた。再活性化における回答は点数化されたが、群間に差はなかった
ECT:A、B群ともに再活性化の後に通常のECTをおこなった
DSST:WAISの符号化のように記号に対応した数字を記入する課題を学習セッションの前に行って、群間の認知機能の差を検討した。群間差がありそうなものだが無かった。
複数選択記憶課題:記憶の再固定化のテスト。スライド系列1枚に対して3−5の選択問題を被験者に課した。最初の1枚目は再活性化で用いているので解析から除外している。質問の内容の例は、問“2枚目のスライドに誰がいたか” a母親 b息子 c母親と息子 d母親と息子と他の誰か、と言った感じ。1枚ずつ行うため課題時間は1時間が必要だった。これはひどい。A,C群は再活性化の24時間後に実施し、 BはECTの直後に行った。質問に対する正答数を記憶のスコアとした。
結果:再活性化を行ったスライド系列の複数選択記憶課題における記憶スコアはA群ではECTにより再活性化なしより低下した。B群では再活性化の有無の差はなく、C群では再活性化有りのスライドの記憶スコアが高かった。
ちなみに、A群における再活性化による再固定化の阻害は、情動的なスライドの部分だけでなく非情動的なスライドの部分でも生じた。
細かい部分はともかく概要は分かった。面白い。再固定化の原則に照らせばScillerの論文に穴が有る事も分かった(どれくらい一般化された原則なのかはわからん)。ECT以外の方法で何とか結果を再現できないか。再現できたらすごいのだが。
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