2011年12月6日火曜日

短期の抗うつ薬の投与はうつ病のリスクの有る被験者の内側前頭前野のネガティブな自己関連付けを減衰する

Short-term antidepressant administration reduces negative self-referential processing in the medial prefrontal cortex in subjects at risk for depression 2011 Molecular Psychiatry

うつ病は情動処理の内側前頭前野の反応の変化と関連する。抗うつ薬は健常者のこれらの脳領域の神経反応を投与の初期において修正することが示されている。しかし、このような変化がうつ病患者で気分の変化に先行して生じるかは明らかになっていない。そこで、本研究では、二重盲検群間デザインにおいて、高い神経質傾向の表現形を示すうつ病のハイリスク群の被験者29名にシタロプラムとプラセボの7日間の投与影響を検証した。治療の最終日に自己関連語の分類課題を行っている際のfMRIを行った。ネガティブな自己関連づけにおける内側前頭前野、背側前帯状回、眼窩前頭皮質の活動がシタロプラムによって減衰し、気分の変動はなかった。これらの知見は治療早期におけるハイリスク群の神経活動の正常化を示しており、抗うつ薬がネガティブな認知バイアスと関連した神経活動に作用するという理論が支持された。

以前からHarmerは抗うつ治療の認知バイアスに対する作用機序を研究していたが、その系列で自己関連付けへの影響を調べたという論文だった。結局未治療のうつ病患者に対する抗うつ治療において調べないと結論が出ない話ではあるが、薬物治療の認知行動療法の差が、大雑把な意味での認知を変えるかどうかということではないのだろう。認知に対する治療法略語との影響は細かく調べないと作用機序の違いは分からないと思う。

2011年12月5日月曜日

未来に対するポジティブな期待を作ることによるうつ病の治療:症状とQOLに対するFuture-Directed Therapy(FDT)の効果に関するパイロット研究

Treating Major Depression by Creating Positive Expectations for the Future: A Pilot Study for the Effectiveness of Future-Directed Therapy 2011 CNS Neuroscience&Therapeutics

本研究ではFDTという外来のうつ病患者を治療するための新しい治療法の効果を検証した。この研究ではうつ症状と不安症状、QOLを測定した。この研究では未来に対するよりポジティブな持てるように援助するマニュアル化された治療を検証した。この治療では1セッション90分、全10セッションで構成されている。比較となるTAU群として伝統的な認知行動療法の集団療法を設定した。16人がFDTに参加し、17人がTAUに参加した。FDTによる治療により、うつ症状、不安症状、QOLの改善がみられた。TAUと比較して有意なうつ症状の改善がみられた。FDTは新たなうつ病治療の選択肢となる可能性を持つと考えられる。

従来のCBTより症状改善に効果があったということだが、誤差の範囲ではとも思う。しかし、Well-beingに焦点を当て、ネガティブな認知ではなく目標達成の妨げとなる認知を治療ターゲットとしているところに独自性がある。マズローの理論を教科書以外で初めて見た。これに限った話ではないが、うつ病の治療において何を効果の指標とするかは今後さらに重要な問題となると思う。症状評価やQOLだけでなく生物学的データの改善やその他再発予防、治療適応の予測因子を調べていく流れはさらに進むだろうと予測される。自分の立場からは、各従属変数をそれぞれ個別に測定するのではなく心理学や医学、神経科学の研究が統合した形で大規模な臨床研究を行えると良いと思う。

2011年11月22日火曜日

うつ病の神経生理学的マーカーの統合

Integrating neurobiological markers of depression 2011 Archives of General Psychiatry

今日においては精神医学的診断は行動的症状と経過に基づいて行われているが、近年は精神疾患の神経生理学的マーカーに対する興味はそれに変わるものとして生じてきている。しかし、現在の分類の方法は主に単一の生物学的マーカーのデータに基づいており、それにより症状の複雑なパターンを特徴化することが困難になっている。本研究の目的は、複数の症状と関連した神経活動と関連した脳画像データを統合し、脳活動の推定モデルに由来するうつ病の文脈における実用性を示すことである。2群の被験者がうつ病と関連した3つの課題遂行中のfMRI測定に参加した。被験者はうつ病と診断された患者と、性別や年齢、喫煙、利き手等を一致させた健常者30人ずつを群に分けた。3つの課題の神経活動のパターンに基づいて患者の分類の精度を検証した。情動や気分と関連したデータの統合は、単一のデータを用いるよりも分類の精度を高めた。予測モデルからは中性顔と大報酬と安全手がかりの神経活動の組み合わせはうつ病の予測因子として余剰なものではなかった。全体の分類と関連した脳領域は、情動処理と刺激特徴の分析と関連した複雑なパターンを構成した。我々の脳画像データの統合の方法は、複数の症状と関連した神経活動と関連し高い精度の分類アルゴリズムを提供した。バイオマーカーの統合データは情動と報酬の処理と関連したデータがうつ病の高い精度の分類に不可欠であることを示した。将来は、より大規模な研究において、バイオマーカーに基づく診断アルゴリズムの臨床応用の可能性を検討すべきである。

先にやられた。現実は厳しいもののこれの上を行くデザインでやるしかない。

2011年11月21日月曜日

治療遺伝子:5HTTLPRと心理療法に対する反応

Therapygenetics: the 5HTTLPR and response to psychological therapy 2011 Molecular Psychiatry

要約がないので翻訳はしないことにする。セロトニントランスポーター遺伝子多形のssは不安障害の子供に対するCBTの効果が6ヶ月後のフォローアップ時に低下するという論文。Trends in Cognitive ScienceのSpecial Issueでも紹介されていたが、心理療法の個別化であったり、より特異的な認知機能やそれに特化した心理療法の発展に期待が持てる話題である。日本ではまず興味を持たれない話題だが。

2011年11月15日火曜日

曝露中の感情の変化と持続

Emotional variability and sustained arousal during exposure 2011 Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry

恐怖症や不安に体する伝統的な曝露療法は恐怖反応の減少を学習の指標として用いていた。しかし、近年の動物モデルでは曝露の際の恐怖反応の持続と上昇は長期的に良好な予後を予測しうると示唆されている。曝露中の覚醒の持続を59人のスピーチ恐怖のアナログサンプルを対照に検討した。被験者は、曝露の際にさらに恐怖刺激を加えられる場合と加えられない場合の曝露療法に振り分けられた。群を分けることによって曝露の1週間後の結果は予測されなかった。どのような変数が予後を予測するかについての回帰分析からは、曝露中の覚醒の持続と主観的恐怖反応は、人口統計学的指標と曝露前の恐怖の程度を調整することで、フォローアップにおける恐怖の低下を予測した。追加された恐怖刺激は予測された効果を生じさせることに失敗した。しかし、何人かの被験者は曝露中の覚醒が持続され、それが良好な予後と関連することが示された。曝露中の覚醒の持続と恐怖反応の変化は、曝露における恐怖の順化よりもより良い予測因子であることが示唆された。

スピーチ恐怖ではなく、単純に疼痛等による恐怖条件付けの消去のための曝露ではどうか?社会的な刺激は複雑な処理を経るので、追加された恐怖刺激にたいする反応はスピーチ恐怖の被験者と行っても個人差がありそうである。伝統的なemotional processing thepryに従えば、この研究のように曝露中の恐怖や覚醒の程度は曝露の効果と関連するだろう。しかし、もう少し単純な恐怖条件付けで再検討する方が良いように思う。

2011年11月2日水曜日

全般性不安障害と大うつ病性障害の感情処理の潜在的制御における共通した異常と疾患特異的な補償作用

Common abnormalities and disorder-specific compensation during implicit regulation of emotional processing in generalized anxiety and major depressive disorders. 2011 American Journal of Psychiatry

不安障害と大うつ病性障害は、両方とも感情の処理と制御における異常が関連している。しかし、神経科学のレベルではこれらの共通点と相違点はほとんど明らかになっていない。本研究では、観察可能な行動指標と不安障害とうつ病に関連した辺縁系ー前頭領域の活動を伴う刺激を用いた感情不一致課題を用いた検討を行った。32人の対照健常者と18人の全般性不安障害の患者、14人の大うつ病性障害の患者、25人の全般性不安障害と大うつ病性障害の併存する患者が、顔表情の分類を単語のラベリングを無視して行う感情不一致課題を行い、fMRIの測定を行った。ここでは、不一致の制御に関する試行間の変化を行動指標と神経活動で比較検討した。行動指標からは、全般性不安障害を有する患者に感情の不一致の潜在的制御の失敗がみられた。対照的に、VACCと扁桃体の活動と結合性の異常が全患者群で示された。しかし、大うつ病性障害のみの患者ではこの活動の低下が、外側前頭前野の活動によって補償され、これらの活動は行動指標で示される潜在的制御の成功と相関していた。これらの結果はVACCと扁桃体における不安障害と大うつ病性障害の共通した異常を示しており、遺伝疫学的に共通していることと関連していると思われる。うつ病における認知的制御の補償的作用は、潜在的レベルでも生じうる障害と補償作用の相互作用による精神病理学的に複雑な性質を示唆していると考えられる。

認知課題においてうつ病で前頭前野の活動上昇が補償作用として生じることが有りうるという点は、解釈としては脳をフルに使わないと課題ができないということか。今後引用されることが多い論文になるかもしれない。

2011年10月29日土曜日

うつ病治療の認知メカニズム

Cognitive mechanisms of treatment in depression 2011 Neuropsychopharmacology

認知の以上はうつ病の中核的特徴であり、感情情報に対するネガティブなバイアスも同様だが、それはうつ病の症状の原因なのか結果だろうか?ここでは、我々はうつ病の“認知神経心理学的”モデルを提案し、ネガティブな情報処理のバイアスがうつ病症状の生起の中核的な原因であることを示し、このバイアスを根絶することによって治療において有益であることを示す。我々は,
現在のうつ病患者については簡潔に、うつ病のハイリスク群と抗うつ治療については詳細に、このモデルと関連したエビデンスをレビューする。現在のうつ病患者と同様にネガティブバイアスは神経質傾向や遺伝的リスク、以前のうつ病の罹患歴などの為にうつ病の脆弱性として見いだされる。近年のエビデンスは抗うつ薬と心理療法がネガティブバイアスを修正し、うつ病の治療の理解に共通したメカニズムが有るという強力な証左を示している。興味深いことに、どの患者にどのような治療が適しているかを予測することも可能であると思われる。しかし、ネガティブバイアスがうつ病を予測し、発見し、治療し慢性化や再発を防ぐために有用かどうかはさらに検証する必要が有る。

ネガティブな認知がうつ病の原因かどうかという問いに対して重要な問題提起を行っていると思う。このようなメジャーな学術誌でこういった議論が出てくるのは自分にとっては好ましい。しかし、実際のところCBT的には認知バイアスがうつ病の原因か結果かという因果関係はそれほど重要でなく、うつ症状の悪循環の一端を担っているというだけで治療ターゲットになる。そう考えると因果関係のモデルではなく、循環モデルを神経科学的に提案することができるほうが望ましい。

2011年10月28日金曜日

リアルタイムfMRIニューロフィードバックを用いた扁桃体の活動の自己制御

Self-regulation of amygdala activation using real-time fMRI neurofeedback 2011 PLoS One

リアルタイムfMRIによるニューロフィードバックは、自分自身の刺激に体する反応と関連した神経生理学的機能の調節をリアルタイムフィードバックを用いて学習する際の被験者の脳の神経可塑性を検討することを可能にした。我々は、感情処理に重要な役割を果たす扁桃体の活動を自己制御するためのトレーニングの実現可能性を検討した。実験群の被験者は左側扁桃体のBOLDシグナルについて継続的に情報を与えられ、ポジティブな自伝的記憶の想起によってBOLDシグナルを上昇させるように教示された。一方で、コントロール軍では同様の課題を行ったが、頭頂間溝のBOLDシグナルをフィードバックした。扁桃体において、有意なBOLDシグナルの上昇が実験群においてみられた。この効果はフィードバックを行っていない状態でも残存した。実験群における扁桃体のBOLDシグナルの変化は、Tront alexithymia scaleの感情同定困難と負の相関が見られた。全脳の解析からはポジティブ記憶の想起において実験グンとコントロール群で有意差がみられた。機能的結合の解析からは扁桃体は前頭ー側頭ー辺縁ネットワークの広範な領域と相関していた。さらに、内側前頭極、内側前頭前野、前帯状回、上前頭皮質と扁桃体の機能的結合は、ニューロフィードバック中もそれ以外のときにも上昇していた。以上の結果は、健常者が扁桃体の活動をニューロフィードバックによって制御する方法を学習したことを示しており、神経精神疾患患者の治療への適用可能性を示唆するものである。

ニューロフィードバックによって扁桃体を直接制御可能という点は、我々にとって朗報だがポジティブ記憶を用いて上昇させるという点が臨床的に有意義だろうか?また、特定の方略をあらかじめ示唆するのは、本来のバイオフィードバックにおけるオペラント学習による自発的な制御方略の獲得とは少し異なるように思う。

2011年10月17日月曜日

全般的社会不安障害における悲しみ表情に対する内側前頭前野の過活動とオキシトシンによる調整

Medial frontal hyperactivity to sad faces in generalizes social anxiety disorder and modulation by oxitocin 2011 International Journal of Neuropsychopharmacology

全般性社会不安障害(GSAD)は脅威と関連したネガティブな社会的キューに対する辺縁系と前頭前野の活動の高まりと関連須津が、社会的に脅威でないネガティブな刺激に対する脳の反応はほとんど知られていない。神経ペプチドのオキシトシンは恐怖と関連した脳活動を減衰したりネガティブ刺激を再活性化することが示唆されている。我々はGSADと健常者を対象に非脅威的な悲しみ表情に対する皮質の活動への鼻腔からのオキシトシン注入の効果を検討した。被験者内二重盲検試験により、悲しみ表情と幸福表情に対する脳活動をオキシトシン、もしくはプラセボ注入後にfMRIで測定した。健常者と比較して、GSADでは悲しみ表情に対するMPFCとACCの活動上昇がみられた。オキシトシンは有意にこれらの領域の活動を減少させ、健常者と同レベルにした。これらの知見はGSADが非脅威的なネガティブな社会的刺激に対する皮質の活動と関連しており、オキシトシンんがこれらの脳活動を減衰することを示している。オキシトシンによる皮質の活動への調整は,GSADにおける社会的にネガティブな刺激の調整に対して神経ペプチドに広範な役割があることを強調するものである。

MPFCつながりで自分の論文を引用してもらっていた。わざわざ用いた刺激が社会不安障害にとって非脅威的だがネガティブ刺激であるということを書いているが、それが扁桃体や島の活動がみられなかった理由になっているようだ。扁桃体や島に体するオキシトシンの影響も検討できるとさらに良い結果だったのだろう。

2011年10月14日金曜日

顔表情の処理における機能的結合:複数の平行経路のエビデンス

Effective connectivity during processing of facial affect: Evidence for multiple parallel pathways. 2011 Journal of Neuroscience

顔表情の知覚には皮質領域のネットワークが関与する。我々はfMRIとDCMを用いて顔表情刺激の顕在的な分類における機能的結合を検討した。特に、我々は情動の分類における顔処理のネットワークにおける後部領域からVLPFCへの結合と、その中で扁桃体がこのネットワークにどのように媒介しているかを検討した。我々は顔表情の処理において下頭頂領域からVPFCへの結合性の上昇を見いだしたが、紡錘状回と扁桃体からVPFCへの求心性の結合性は見いだせなかった。さらに、下頭頂領域からVPFCへの結合性は怒り表情のみ認められた。また、ベイズモデルによる比較ではVPFCへの求心性の結合性は、扁桃体によって調節される間接的な影響とは異なり、顔表情によって直接的に調節されることが示唆された。我々の結果は、VPFCへの情動情報は複数の平行経路を介してもたらされ、扁桃体の活動は顕在的な感情処理の際には情報の移動を十分に説明しないことを示した。

顔認知課題はうつ病においてfMRIによる検討がよく行われているが、このようなDCMによるネットワーク解析は行われていない。この論文のDiscussionでは情動処理における扁桃体の役割が前頭領域まで及んでいないことを示唆している。顔認知課題で扁桃体の活動を出すには、閾値下認知にした方が良いし、役割としても妥当ということか。今後の展開がどうなるかわからないが。顕在的な顔表情認知においては前頭皮質の役割がかなり大きいのだろう。

2011年9月29日木曜日

疼痛の生物学的基盤に基づく測定に向けて:熱刺激による疼痛と非疼痛を区別する脳活動のパターン

Towards a physiology-based measure of pain: Patterns of human brain activity distinguish painful from non-painful thermal stimulation. 2011 PLoS One

疼痛は観察できる損傷が存在しなくても生じる。その為、疼痛の評価方法のゴールドスタンダードは長きにわたって自己報告による物だった。言語的コミュニケーションが不可能なために疼痛の管理が妨げられることから、研究者は自己報告に頼らない疼痛のアセスメントツールの開発に力を注いできた。これまでの努力は、臨床的に妥当性のある言語報告に変わる物を開発することに成功していない。近年のfMRI研究とSVM学習は認知状態を性格に評価することに組み合わせられて用いられてきた。そこで、我々はSVMとFMRIデータから自己報告無しで疼痛の評価が可能であるという仮説を立てた。fMRI実験には24人の被験者が参加し、疼痛と非疼痛刺激が呈示された。8人の被験者を用いて疼痛を区別できる脳活動をSVMを用いて全脳で探索した。我々はこの学習モデルを残りの未学習の16人の被験者でテストした。全脳のSVMは81%の精度で疼痛を区別できた。SVMハイパープレーンからの距離を用いることで精度は84%に上昇し、15%の刺激は分類が困難であった。SVMの全体的なパフォーマンスは、一次感覚野、二次感覚野、島、一次運動野、帯状回などの疼痛の処理過程に関わる領域の活動に大きく影響されていた。ROI解析からは個人脳の局所脳活動よりも全脳の活動の方が正確に分類できることが示唆された。我々の報告はSVMとfMRIにより被験者からのコミュニケーション成しに疼痛の評価が可能であることを示した。

脳活動のデータがクラスターが小さいのであまり見栄えが良くないが、研究の目的や意義は非常に興味深い。痛みに限らず感情などの認知状態の分別にも当然機械学習を用いることができる。

2011年9月28日水曜日

認知的再評価の実行ー維持モデルの検証

A test for the implementation-maintenance model of reappraisal 2011 Frontiers in Psychology

認知的再評価は感情刺激によって喚起される感情を変化するために、感情刺激を解釈したり始動する際に、意識的に着実な変化を生じさせる方法であると定義されている。認知的再評価は不安を含めてネガティブな情動をdown-regulateするために用いることもできる。現在、認知的再評価に媒介する認知過程や神経基盤を明らかにすることに関心が集まっている。我々は近年認知的再評価が時間的に変化し、ダイナミックで複数の要素を持つ過程であると概念化したIMMO(implementation - maintenance model)モデルを提唱した。IMMOの重要な主張は、認知的再評価のエピソードが方略の選択や作業記憶内での認知的再評価を行う題材の想起といった初期の実行段階と、作業記憶とパフォーマンスの監視過程を含む後期の維持過程によって特徴づけられるということである。これらの過程は異なる神経回路によってサポートされると思われる。我々は、脅威に対してdetatchmentするパラダイムとfMRIを用いて、認知的再評価と関連する脳活動が、認知的再評価のエピソードの進行に伴って外側前頭前皮質の後部から前部へ移行するという結果を見いだした。我々のデータは認知的再評価の2つの異なるステージの存在を初めて示した。

結果はクリアだが、予想された領域の変化ではなかったのではないだろうか?実験パラダイムはシンプルだが解析は複雑に見える。しかし、IMMOは説得力のあるモデルと思うので今後さらに検証を進めていくだろう。

2011年9月26日月曜日

溝にはまるうつ病:うつ病とその治療の再考

Stuck in a rut: rethinking depression and its treatment 2011 Trends in neurosciences

現在の大うつ病性障害の定義は、臨床と研究のために信頼できる診断基準を作ろうという努力から生じたものである。しかし、多くの研究があるにもかかわらず、大うつ病性障害の神経生物学的病態はほとんど明らかになっておらず、50-70年前と比較して今日の治療が有効であるとは言えない。ここに我々は現在のうつ病の概念が誤った基礎研究と臨床研究によって導かれたものであると提議する。再定義においては中核症状にさらに焦点を当てることが必要であり、可能である。しかし、我々はうつ病が気分状態そのものよりもネガティブな気分状態から抜け出すことができなくなるとする方が良い定義であると結論付けた。我々は改められた定義が将来の臨床研究と基礎研究にもたらす示唆についても議論を行う。

自分の考えていることは他者も大体同じことを考えるということだった。ネガティブ情動そのものではなく、その制御に失敗することがうつ病の病態であるという考え方は、認知行動療法におけるうつ病のとらえ方に近い。ネガティブ気分の発生メカニズムではなく維持するメカニズムを明らかにし、そこにターゲットを当てた治療(手段はどうあれ)へという方向に向かうのだろう。

2011年9月22日木曜日

うつ病における認知の機能障害:神経回路と新たな治療方略

Cognitive dysfunction in depression: Neurocircuitry and new therapeutic strategies. 2011 Neurobiology of Learning and Memory

大うつ病性障害は、著しい併存症と致命率、公衆衛生コストと関連した人を無力化する医学的状態である。しかし、うつ病の背景にある神経回路の異常は未だに完全に明らかにされておらず、結果として現在の治療の選択は不幸にも効果が制限されている。近年の知見はうつ病の認知の側面とその神経生理学的相関に焦点を当て始めている。大うつ病性障害で見られる認知の機能障害は大きく2つに分けられる。一つは認知バイアスであり、情報処理をゆがめネガティブ刺激へ注意を偏らせる。もう非乙は認知の欠損であり、注意の障害や短期記憶、遂行機能の障害を含む。本稿では我々はこれらの領域の知見をレビューし、認知バイアスと欠損の背景にある神経回路を示唆し始めている脳画像研究を検討する。我々は、認知機能の欠損、注意バイアス、,ネガティブ情動の維持といった大うつ病性障害の特徴が前頭ー辺縁系の機能障害の一部として理解でき、それには感情の認知的制御の障害も関連していると低減する。最後に、我々はこれらのメカニズムに基づいた新たな薬物療法と非薬物療法を参照する。

最後の方の新たな非薬物療法の下りは何かに使えそうである。

2011年9月10日土曜日

異なる基本的感情における神経連絡の異なる経路

Distinct pathways of neural coupling for different basic emotions 2011 Neuroimage

感情は皮質と皮質下構造に由来する複雑なイベントであるが、異なる感情の性質に関与する神経会との機能的統合のダイナミクスは未だに明らかになっていない。fMRIを用いて、我々は基本的感情(恐怖、嫌悪、悲しみ、幸福)の映像を提示することによって換気された神経反応を測定した。扁桃体と関連した皮質領域は、すべての基本的感情によって活動した。さらに、異なる層にある皮質領域および皮質下領域は各感情によって活動した。これらの知見は、すべての感情処理に関連する視覚野と扁桃体の機能的統合を検証するための領域特定的な3つのeffective connectivityモデルを示唆した。一つは恐怖と関連する適応的な準備反応に関わる前頭ー頭頂システムであり、二つ目は嫌悪と関連した混合した刺激に対する防衛反応を反映した身体感覚システムであり、3つ目は幸福と関連した享楽的相互作用を理解するための内側前頭前野と側頭ー頭頂皮質のシステムである。これらの領域特定的なモデルと一致してeffective connectivity解析の結果からは、扁桃体が基本的感情の感覚運動領域、身体感覚領域、認知的毒面を処理する皮質ネットワークに異なる機能的統合の影響に関わることを示唆した。effective connectivityネットワークの結果は、喚起された感情体験の質に基づいた運動と認知・行動の制御に有用であると思われる。

長いので細かいところはわからないが、扁桃体はすべての感情体験に関わるが、感情価によって関わる扁桃体に関わるネットワークやネットワークのノード間の関係性がかわるということをDCMで検証したということだろうと思う。

2011年9月3日土曜日

消去中のイメージによる書き直しを加えることでABAの復元効果減少を導く

Adding imagery rescripting during extinction leads to less ABA renewal 2011 Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry

消去は条件づけられた恐怖反応を減少せしめるのに非常に有効だが、消去の文脈外での恐怖反応の再発はしばしば生じる。本研究では、消去手続き中のイメージによる書き直しがUSの価値を下げ、単なる消去よりも復元効果が減少するかを検討した。70人の学生が恐怖条件付けパラダイムに従事した。CS+はUSが後に必ず出現し、CS-はUSが後に全く出現しなかった。全ての群において恐怖獲得は文脈Aで行われた。CS+,CS-に対する消去においてはUSは双方とも出現しなかった。3つの群で消去手続きを異なる文脈Bで行った(ABAデザイン)。4つ目の群では復元効果を検証するために恐怖獲得の際と同じ文脈Aで行った(AAAデザイン)。消去手続きの際には被験者はUSの価値を下げるようなイメージによる書き直し(ABAir)、イメージの全般的な影響をみるためにUSと関連のないイメージ(ABAcont)、そして、全く教示を行わない(ABAno、AAAno)のどれかに割り当てられた。その後文脈Aにおいてテストを行った。USの予期の評価による復元効果はABAirはABAnoよりも減少した。そして、ABAirではUSの価値下げが生じ、USの心的表象が変化したことを示唆した。これらの知見は、条件付け理論に沿うというだけでなく消去中のイメージによる書き直しが不安障害の治療に有用であることを示唆している。

正直に言ってSCRの反応が変わっていないので、データとしては不十分な結果だと思う。また、長期的な効果も分からないので復元効果を長期的に妨害するのかは不明である。ただ、Reconsolidationを妨害する際にこのようなUSの書き直しがどういう効果を持つのかは興味深い。

2011年8月19日金曜日

前帯状回の体積と情動制御:大きいほど良い?

Anterior cingulate cortex volume and emotion regulation: Is bigger better? 2011 Biological Psychology

情動の機能障害は気分障害や不安障害の重要な特徴である。これらの障害の多くには情動制御にかかわる背側ACCなどの脳領域の体積減少と関連がある。健常者においてこれらの関連を検討することは情動制御と体積減少の間の繋がりを明らかにするだろう。高解像MRIを50人の女性健常者に対して行い、背側ACCを算出した。情動制御(認知的再評価と表出の抑圧)の特性尺度とネガティブ情動も得た。予測されたように、認知的再評価は背側ACCの体積と正の相関があったが腹側ACCの体積とは関連が無かった。抑圧やネガティブ情動、年齢は背側ACCの体積とは関連が無かった。これらの知見は健常者における認知的再評価の個人差は背側ACCの体積の個人差と関連があることを示唆した。

前に読んだメタ分析論文ではVMPFCが情動制御に共通して関わるという論文があったが、この論文では背側dACCが情動制御と関連があるということだった。多分、認知的再評価自体は間接的に腹側領域に影響を及ぼすということだろう。

2011年8月16日火曜日

状況の概念化における感情の基盤

Grounding emotion in situated conceptualization 2011 Neuropsychologia

Conceptual Act Theory of Emotionによると、状況を理解するために用いられる状況の概念化は感情体験を左右すると言われている。我々は2つの仮説を検証するための脳機能画像実験を行った。仮説1:異なる状況の概念化は異なる状況における同様の感情を異なる形式で生み出す。仮説2:状況の概念化の構造は、感情状態一般にかかわる脳部位に分布する多様な回路から生じる。これらの仮説を検証するために、ある状況における被験者の感情体験を操作した。各試行において、被験者は自身を身体的危険か社会的に評価される状況に没入し、恐怖や怒りを体験するようにした。仮説1に基くと、同様の感情における脳の活動は先行する状況によって機能が異なると考えられる。仮説2に基くと、重要な脳活動は現在の状況での感情と関連した概念処理を反映しており、感情の基盤にある多様な回路から引き出されるものと考えられる。結果からはこれらの予測が支持され、状況の概念化を生み出す構造のプロセスが示された。

この種の研究では稀なほど長い論文。あまりきちんと読めていないが、実験パラダイムは面白いと思う。ある状況をどのように概念化する、どのように意味づけるかという過程は高次の認知機能や心の理論とも関連しそうである。実際に脳活動も概念化に関して良く心の理論でいわれるような脳部位が活動しているようだった。

2011年8月13日土曜日

恐怖は心の許す限り深い:ネガティブ感情の制御に関する脳機能画像研究の座標ベースのメタ分析

Fear is only as deep as the mind allows: A coordinate-based meta-analysis of neuroimaging studies on the regulation of negative affect 2011 Neuroimage

ヒトはネガティブ感情や恐怖をコントロールする能力を持つ。しかし、感情制御の能力が異なる体験の領域を通して共通の神経メカニズムに依存するもんかどうかは明確になっていない。ここでは我々は恐怖消去、プラセボ、認知的感情制御といった制御に関する脳活動の共通性を同定することを試みた。座標ベースのメタ解析を用いて、我々は被験者がネガティブ感情を減少させたときの活動上昇と活動低下する領域を明らかにしようとした。結果からはVMPFCが共通してネガティブな情動反応をコントロールし主観的な不快感を減少させることが示唆された。ネガティブ情動の減少は左の扁桃体の活動減少に伴って生じていた。最後に、恐怖消去では見られなかったがプラセボと認知的感情制御における鎮静効果はACCと島の活動上昇に伴うものだった。まとめると、我々のデータはVMPFCが、不快感感情処理システムをになう系統発生学的に古い構造におけるネガティブ情動反応を制御する恐怖や不快感の概括的なコントローラーであることを強く示唆した。さらに、高次の制御方略は情動的イベントに効果的に対応するために、さらに補足的に神経のリソースを必要とすることが示唆された。

“Fear is only as deep as the mind allows”は何かの格言らしいが、恐怖はヒトの主観だからどの程度恐怖を感じるかはヒトの心しだいということか。VMPFCは共通のネガティブ情動のコントローラーということだが、むしろ制御方略の違いは他の領域からVMPFCへの影響にあらわれるのかもしれない。

2011年8月5日金曜日

うつ病における自伝的記憶再生の欠如の機能解剖学的構造

Functional anatomy of autobiographical memory recall deficits in depression. 2011 Psychological Medicine

うつ病には特定的な自伝的記憶の再生の欠如があると言われている。広範囲の研究によって健常人における自伝的記憶の機能解剖学的相関が検討されているが、うつ病における自伝的記憶の神経生理学的基盤は検討されていない。本研究の目的は、自伝的記憶の再生中の血行動態の相違を健常者とうつ病で比較することである。12人のうつ病患者と14人の健常者はポジティブ語、ネガティブ語、中性語などの手がかりに反応した自伝的記憶の再生中にfMRIを行った。記憶の再生と引き算問題を対象したときの血行動態をうつ病患者と健常者で比較した。さらに、パラメトリック線形分析によって喚起の程度と関連している領域を検討した。行動データはうつ病において特定性、ポジティブ記憶の減少がみられ、喚起と親近性は増加した。海馬周辺のBOLD反応は健常者において高かった。島の前部の活動は特定的な自伝的記憶の再生時に低く、うつ病患者においてはさらに減少していた。ACCの活動は健常者においては喚起の程度と正の相関があり、うつ病患者では相関が無かった。我々は、うつ病患者と健常者の比較において特定的な自伝的記憶が減少しており、分類的な自伝的が増加することを確認した。また、自伝的記憶の検索にかかわる内側側頭葉、前頭葉の活動はうつ病患者と健常者で異なることが明らかになった。これらの神経生理学的欠如はうつ病における自伝的記憶の欠如の基盤になっていると思われる。

うつ病の認知は記憶や情動、自己評価や将来の見通しなどと多岐にわたって神経基盤が調べられているが、それぞれの認知がどのようにうつ病に影響しているのかを総合して理解できるようになったら良いと思う。

2011年8月3日水曜日

情動をどのように制御するのか?再評価と気逸らしの神経ネットワーク

How to Regulate Emotion? Neural Networks for Reappraisal and Distraction 2011 Cerebral Cortex
情動の制御は社会環境における適応的行動に重要である。情動制御の達成には注意コントロール(気逸らし)から認知的変化(再評価)まで様々な方略が適用される。しかし、異なる制御方略を神経メカニズムと感情体験への影響という観点から比較したエビデンスは不十分である。そこで、我々は情動画像に対する再評価と気逸らしをfMRIで直接比較した。気逸らしにおいては被験者は計算課題を行い、再評価では情動的状況を再解釈した。どちらの方略も主観的な感情体験の減少と扁桃体の活動の減少がみられた。しかし、再評価と直接比較すると、気逸らしにおいては扁桃体の活動がより減少していた。一方で、どちらの方略においてもMPFC,DLPFC、下後頭皮質が関与しており、OFCは再評価のときに選択的に活動していた。対照的に、背側ACC,後頭葉の広範な領域が気逸らしに関与していた。扁桃体との機能的結合の違いは2つの情動制御方略に特異的な活動の役割を明らかにした。

Macrae et al (2010)を踏まえた研究となっている。特徴的なのは、情動を喚起する前に情動制御方略の教示をするべきではなく、情動を喚起した後に情動制御方略の教示をするべきとした点。確かに喚起される前だと情動が喚起される前に制御を行ってしまう可能性もあり、その後の脳活動が情動の生起と制御方略で行楽してしまう。

2011年8月1日月曜日

抗うつ薬の脳への影響:感情研究のメタ分析

Brain effects of antidepressants in major depression: A meta-analysis of emotional processing studies 2011 J Affect Dis

多くのPET研究によってうつ病における一貫した脳活動のパターンが特定されている。このような機能障害を表すパターンは抗うつ治療によって正常化されるとみられる。このメタ分析の目的はfMRIの感情研究を用いて抗うつ治療の後のうつ病の改善と関連した脳活動のパターンをより明確に特定することである。9つのfMRI研究とPET研究にQuantitative Activation Likelihood Estimation(ALE)を行った。抗うつ治療の後、DLPFC、VLPFC,DMPFCの活動は増加し、扁桃体、海馬、VACC、OFC、島の活動は減少するという結果だった。さらに、ACC、PCCと同様に楔前部と下頭頂葉の活動の減少はデフォルトモードネットワークの不活性化の回復を反映しているとみられた。大うつ病にかかわるいくつかの脳領域は抗うつ治療によって正常化されることが示唆された。うつ病における感情処理の神経基盤に対する抗うつ治療の影響をリファインしていくためにはうつ症状にかかわる感情課題やデフォルトモードネットワークにかかわるような自己関連づけ課題を用いるべきである。

ポジティブ感情に関連したDMPFCの活動は抗うつ薬で増加するようである。抗うつ治療といってもCBTの場合は薬と違って統制が困難であるためほとんど脳機能画像研究が無い。抗うつ薬とCBTの違いや相乗効果の背景にどのような神経基盤があるのか研究する必要がある。

2011年7月29日金曜日

うつ病における接近と回避の役割の探索:統合的モデル

Exploring the roles of approach and avoidance in depression: An integrative model. 2011 Clinical Psychology Review

ヒトの行動は2つの動機に基いて構成される。ヒトルはポジティブな事象に接近したいという動機であり、もう一つはネガティブな事象を回避したいという動機である。接近と回避両方がうつ病をふくむ精神病理と関連している。しかし、いくつかの例外があるものの、うつ病における回避の動機は強調されていない。本稿ではうつ病における接近と回避の役割を検討しうつ病における接近と回避の統合的モデルを呈示する。接近の欠如と回避の動機はポジティブな体験と非抑うつ的な行動の強化を抑制し、うつ病の発症と維持に寄与する。さらに回避の過程はうつ病の発症と再発の脆弱性を増すようなネガティブな情報処理バイアスに働きかける。そして、回避の過程と接近-回避のシステムの関係の調節障害は達成不能な目標を追求を保持することによってうつ病に寄与すると思われる。理論的背景と経験的エビデンスがこのような現象を示唆している。うつ病における接近と回避の役割を理解することでうつ病の概念化と治療の改善の助けとなると考えられる。

図として神経科学的背景を含めて接近と回避のうつ病に対する影響を解説していた。接近と回避の話だけに当然偏っているので全ての情報を統合してはいないが。

2011年7月27日水曜日

気分はどのように感情記憶の構造に挑戦するか?

How mood challenges emotional memory formation: An fMRI investigation  2011 Neuroimage 56,3 1783-1790

実験的気分操作とfMRIは気分一致記憶の神経基盤を検討するための機会を与える。先行研究では気分障害患者において内側側頭葉が気分一致記憶バイアスに関わることが示唆されており、気分と感情記憶の構造の交互作用は検討されていない。特に気分一致効果に対して前頭前野領域がどのように関わっているかは不明瞭である。本研究ではEvent-related fMRIデザインで20人の健常者に対してHappy感情とSad感情が感情語(Positive, Negative,Neutral)の記憶にどのように影響するかを検討した。気分、刺激、記憶の主効果は気分一致もしくは不一致の記憶と関連した活動として検討された。結果からは扁桃体と海馬の活動が全体的な気分と再生率に関わっていることが示された。気分一致記憶の構造はNegative刺激の気分一致記憶にはOFC、Negative刺激の気分不一致記憶にはMFCとIFCによって特徴づけられることが明らかになった。これらの結果は学習の際の前頭前野領域の異なる部分の活動がNegative刺激の気分一致記憶と気分不一致効果に関与することを示しており、OFCが気分一致効果を、MFCとIFCが気分と刺激の感情価との間の不一致を乗り越える助けとなっていることが示唆された。

大昔、卒業論文のときに気分一致効果の研究をやっていた。何年も前なのでもはや記憶が薄れているが、後の指導教員にコメントをもらってからは、うつ病のモデルとしては理解しやすいがうつ病研究の題材としてはやりにくいと思っている。なぜなら、気分操作の効果は特性としての抑うつ群には影響しにくい上に、群の要因を加えると3要因になってしまうからである。この研究に関しては扁桃体と海馬についてもう少し突っ込んだ解析をしても良いのではないかと思う。MVPAなどを行ってそれぞれの条件における扁桃体と海馬の活動の意味を検討できるのではないだろうか。

2011年7月20日水曜日

BJPからのメール

British journal pf psychiatryに以前に投稿したことがあるので、編集部からメールが届いた。
インパクトファクターが約6(正確には5.9)になったという知らせだった。
エディターとしてはインパクトファクターが上がったことに複雑な思いがあるらしいことが書かれた後に以下のような詩が加えられていた。正確な意図は分からない。

The Impact Factory Song

There comes a time of year
Which for some yields joy and cheer
Whereas for others it brings gloom
And impending signs of doom
I refer to the end of June
It’s the Impact Factor tune
Which we dance to tho' we fear
Its strains may cost us dear
In promoting our alliance
'Tween scholarship and science
And sometimes in defiance
We reject our weak reliance
On the star by which we steer
With each number crunching tear

But we have to play the game
As our authors will turn to blame
If we fail them in our quest
To be better than all the rest
Now's the time to attest
In the BJP you must invest
And fan our impact factor flame
By seeing papers you can claim
Really are the best
And once published and assessed
All will be impressed
'cross East, North, South and West
Let the world then bold proclaim
Each author's new found fame

2011年7月7日木曜日

うつ病のMRI研究:系統的レビューとメタ回帰分析

Magnetic resonance imaging studies in unipolar depression: Systematic review and meta-regression analysis European Neuropsychopharmacology 2011

これまでの構造MRI研究のメタ分析はうつ病において皮質と皮質下の異常がみられることを示している。
さらに、著しい非均一性の系統的探索の欠如がこれまでの知見の一般性を損なわせている。我々は系統的レビューとメタ解析を効果量を推定するために行った。出版バイアスや研究デザインの多様性が効果量に及ぼす影響を検討した。本研究の目的はうつ病、双極性障害、健常者のMRI研究を系統的に比較することと年齢に関係なく全ての関心領域を検討すること、効果量に影響する要因をメタ回帰分析で検討することである。うつ病においては前頭前野、帯状回、海馬、線条体などの感情処理にかかわる領域の体積減少がみられた。下垂体と白質は増加していた。効果量に影響する要因は、方法、臨床データ、薬物療法、年齢であった。

2011年7月4日月曜日

ヒトの扁桃体における固定し、分散した恐怖記憶の痕跡

A Stable Sparse Fear Memory Trace in Human Amygdala 2011 Journal of Neuroscience

古典的条件付けは種を超えて保持されており、嫌悪条件付けの強力なモデルである。げっ歯類においては恐怖記憶は扁桃体の影響化において保存され、再活性する。霊長類において同様のメカニズムがあるという証拠はなく、逆に霊長類では扁桃体は嫌悪条件付けの初期にだけ寄与し、その後のフェーズは扁桃体の外に移行すると考えられている。本研究では、この問題をfMRIと多変量解析を合わせて再検討する。個人レベルにおいて、基底外側部と中心核がCS+とCS-を弁別することが示された。この弁別の強さは時間を経て上昇し、恐怖の行動反応と対になっており、固定化した恐怖記憶の表出と一致していた。この結果は返答たいの基底外側部と中心核が学習の初期だけでなく恐怖記憶の保続にも関与することを示唆している。恐怖の分散した神経表出は多変量解析によって明らかにされ、ヒトを対象としたこれまでの研究でとらえにくかった記憶の痕跡を明らかにした。

被験者が7人しかいないが、8人もパニック発作を起こしたために脱落したらしい。ここでの多変量解析とはサポートベクターマシンのことだが、恐怖記憶のメカニズムの検討のために用いられるのはおそらく初めてと思われる。

2011年6月28日火曜日

気分と関連した内側前頭前野の反応はうつ病の再発を予測する

Mood-Linked Responses in Medial Prefrontal Cortex Predict Relapse in Patients with Recurrent Unipolar Depression 2011 Biological Psychiatry

気分変動に伴う認知プロセスの変容はうつ病の再発リスクの上昇と関連しているが、その神経基盤とうつ病の再発や予防との関連はほとんど知られていない。16人の寛解したうつ病患者と16人の健常者はSadもしくはNeutralな動画を視聴している最中にfMRIを行った。そして、感情反応と関連した脳活動と18カ月後の再発との相関を算出した。ROC曲線を再発を予測する信号値のカットオフを決めるために用いられた。再発と関連した領域は群間比較した。患者群ではMPFCと視覚野の活動が再発を予測していた。MPFCの活動は反芻と関連しており、視覚野の活動はアクセプタンスと関連していた。健常者と比較して、寛解した患者はMPFCの活動が低下しており、視覚野の活動が上昇していた。MPFCは感情制御というよりもうつ病の再発を予測する指標であることが示された。寛解の維持はMPFCの活動が正常化することとして特徴づけられる。さらに、視覚野の活動は再発に対する抵抗性を予測しており、ネガティブ感情に対する反芻というよりは感覚野の再発予防の役割を示すものである。

内側前頭前野はうつ病においては症状の悪化と関連した要因として機能すると考えられうると思う。感情制御などの機能とも関連するが、ネガティブ情動の悪化と改善に同じような脳部位が関わるということは、内側前頭前野の働き方を決める別の要因があるのかもしれない。

2011年6月24日金曜日

グルココルチコイドは消去ベースの心理療法を促進する

Glucocorticoids enhance extinction-based psychotherapy 2011 PNAS

不安障害に対する曝露療法は恐怖消去に依存すると考えられている。前臨床試験においてグルココルチコイドが消去を促進することが示されていることから、我々はこれらのホルモンが曝露療法を促進するかを検討した。2重盲検のRCTにより、40人の高所恐怖症の患者をヴァーチャルリアリティによる曝露療法で治療した。20mgのコるちぞーるとプラセボを治療セッションの1時間前に毎回投与した。被験者は最終セッションの3-5日後と1カ月後に治療後のアセスメントを行った。コルチゾールを投与した群は質問紙による高所恐怖が治療後、フォローアップ双方でプラセボよりも減少していた。さらに、コルチゾールを投与した群はヴァーチャルエクスポージャー中の急性の不安とフォローアップ時の皮膚伝導水準が有意に低下していた。これらの結果はコルチゾールが曝露療法の効果を促進することを示している。

D-cycloserineによる増強療法と同系統の研究。記憶の変容を促進する薬物なら何でも曝露療法を増強するのかもしれない。しかし、SCLしか図っていないが、記憶の変容過程と促進の脳機能を測定しておけば、薬物を使わなくても特定の脳機能を刺激することにより曝露療法を促進できるのではないか。

2011年6月22日水曜日

パニック障害の進展における内受容的恐怖条件付けの役割

The role of 'interoceptive' fear conditioning in the development of panic disorder Behavior Therapy 2011
一般人口の20%以上は生涯に少なくとも一回のパニック発作を経験するが、パニック障害に発展するものは少数である。条件付けのメカニズムは、パニック障害になる人々のパニック障害の発展がトラウマ的なパニック発作に基づくと説明している。準備理論によると、ある種のCueは他のCueよりも条件付けされやすいことを示唆しており、パニック障害の場合は内的、身体的な危険のシグナルである。本研究の目的は、異なる内的、身体感覚をCSとして、35%CO2吸入をUCSとした文章による異なる条件付けパラダイムを用いて準備理論を検討することである。33人の健常者は“窒息(する状況を書いた文章)”“ニュートラル(でリラックスした状況を書いた文章)”“緊急(的状況を書いた文章)”3つの文章条件に配分された。学習期には2つの文章のうち1つの文章を聞いた後に35%のCO2(CS+)を吸入し、もう一方は部屋の空気を吸入した。学習期の後に文章のみを呈示するテストをおこなっところ、窒息の文章に振り分けられた被験者のみ主観的不安と喚起量の変化がみられた。この結果は内受容的条件付けと準備性理論と喚起量の役割から論じられる。

条件付けの設定に工夫と労力をかけている。窒息の文章のCSとしての獲得のされやすさには窒息がパニック発作と類似していることが関係しているということらしい。文章に対する評価や認知が介在しないということなのでCSの質の違いによる脳の反応を同じ条件付けパラダイムで測定できれば、無意識化の条件付けのメカニズムの脳内システムを明らかにできる可能性がある。

2011年6月13日月曜日

自閉症における全脳の構造MRIの予測値の検討:パターン分類アプローチによる

Investigating the predictive value of whole-brain structural MR scans in autism: A
pattern classification approach 2010 Neuroimage

自閉症スペクトラム障害は通常の多変量解析では検出し難い脳構造の微妙で空間的な変化を伴う。多重比較補正が求められるため十分な件出力を得るためには大規模なサンプル数が必要とされる。小サンプルによる神経構造学的変化に関する報告は大きなばらつきがある。また、VBMでは予測ができないため診断上の価値は制限される。我々はSVMによる全脳の分類を用いて自閉症スペクトラムの神経構造ネットワークを検討し、構造MRIの成人の自閉症スペクトラムの予測の価値を検討した。結果ではSVMとVBMを比較した。我々は44人の男性成人を対象とした。22人の自閉症スペクトラムと22人の健常対照者が参加した。SVMでは自閉症スペクトラムと健常者を弁別する区間ネットワークが同定された。これらの中には辺縁系、前頭―線条体ネットワーク、前頭―側頭ネットワーク、前頭―頭頂ネットワーク、小脳が含まれていた。灰白質にSVMを適応したところ、自閉症スペクトラムの被験者を86%の特異度、88%の感度で分類した。68%のケースは白質を用いて分類された。ハイパープレーンの距離は症状の重症度と相関していた。対照的に、VBMは対照的に群間差がわずかしか見られなかった。これらの結果から、我々はSVMで自閉症スペクトラムと健常者の間の脳内ネットワークの微細な空間的な相違を検出できると提案する。また、これらの相違は症状の重症度を予測することも可能である。

2011年6月10日金曜日

高磁場MRIを用いたうつ病の治療反応予測

Prognostic prediction of therapeutic response in depression using high-field MR imaging 2011 Neuroimage

大うつ病性障害の治療の著しい発展にも関わらず、患者がどのように治療反応を示すかという点にはかなりのばらつきがある。約70%の患者は標準的な抗うつ約治療によっていくらかの改善がみられるため、非治療抵抗性うつ病(NDD)とみなされるが、残りの30%の患者は治療に反応しないために治療抵抗性うつ病(RDD)とみなされる。現時点では、うつ病や治療予後を同定するために用いられるような客観的、神経学的マーカーは存在しない。そこで、我々はSVMを用いて治療前の神経解剖学的構造で診断と予後を検討した。61人のうつ病患者と42人の健常者の構造MRIを撮像した。患者は標準的な抗うつ薬治療を受けていた。臨床結果に基づいて、23人のRDDと23人のNDDに群分けした。灰白質に基づいた診断精度はRDDで67%、NDDで76%であった。白質に基づいた診断精度はRDDで59%、NDDで85%であった。灰白質でのSVMはRDDとNDDを70%の精度で弁別できた。対照的に、白質でのSVMは65%の精度で弁別した。これらの結果は灰白質と白質がうつ病の診断と予後を予測する潜在性を持ち、治療を行ううえでの生物学的マーカーの使用に向けた第一歩となるだろう。

2011年6月8日水曜日

精神病リスクの同定と変遷の予測のための神経解剖学的パターン分類の使用

Use of Neuroanatomical Pattern Classification to Identify Subjects in At-Risk Mental States of Psychosis and Predict Disease Transition 2011 Archives of General Psychiatry

ARMSを同定するには前駆症状の徴候による。近年、機械学習アルゴリズムはMRIデータをベースにして神経精神疾患の患者を診断分類することに成功している。我々は多変量の神経解剖学的パターン分類が精神病リスクを同定し、その変遷を予測できるかどうかを検討した。多変量神経解剖学的パターン分類は、早発もしくは後発のARMSと健常者の構造MRIデータに基づいて行われた。この方法の予測力は、精神病に変遷したARMS,精神病に変遷しなかったARMS、健常者のベースラインのデータによって評価された。分類の一般性は交差妥当性と新たな45人の健常コホートによって推定された。最初の分類は20人の早発のARMS,25人の後発のARMS,25人の健常者が含まれた。次に15人の精神病に移行したARMS、18人の移行しなかったAMRS、17人の健常者で行われた。3群の分類の精度は、健常者86%、早発のARMS91%、後発のARMS86%であった。また、2つめの解析では健常者90%、精神病に移行したARMS88%、精神病に移行しなかったARMS86%であった。新たな独立した健常者で1つ目の解析では96%、2場面目は93%であった。ARMS群の相違と臨床的予後は全脳の神経解剖学的異常パターンの解析によって同定できるだろう。

2011年6月6日月曜日

言語流暢性課題に対する神経活動のパターンは統合失調症と双極性障害の診断の特異性を示す

Pattern of neural responses to verbal fluency shows diagnostic specificity for schizophrenia and bipolar disorder 2011 BMC Psychiatry, 11:18

遂行機能と言語処理の障害は統合失調症と双極性障害の特徴である。これらの疾患の機能的神経基盤は共通点と同様に特異性がある。統合失調症と双極性障害の神経活動の異なるパターンを決定することは診断のためのバイオマーカーを提供するだろう。104人の被験者が言語流調整課題遂行中にfMRIの測定を行った。被験者の内訳は、32人の寛解した統合失調症の患者、32人の躁病期の双極性障害の患者、40人の健常者であった。言語流調整課題に対する神経活動を各群で検討し、機械学習によって神経活動のパターンによる診断のポテンシャルを検討した。言語流調整課題遂行中に、両患者群はACC,DLPFC,Putamenの活動が健常者より増加し、Precuneus,PCCの活動が減少した。活動の程度は統合失調症患者が最も大きく、次いで双極性障害患者、健常者の順だった。神経活動のパターンは統合失調症患者を92%の精度で識別し、双極性障害は79%の精度で識別した。双極性障害の分類のミスは双極性障害の患者を健常者と分類するために生じた。要約すると、統合失調症患者と双極性障害の患者は両者ともに前頭前野、線条体、デフォルトモードネットワークの機能に変化がみられ、特に統合失調症患者において機能障害の程度が大きかった。言語流暢性課題に対する反応のパターンは高い精度で統合失調症と双極性障害の患者を診断した。言語処理に対するfMRIによるパターン認識は統合失調症の診断マーカーになりうるだろう。

2011年6月3日金曜日

うつ病における反芻の神経相関

Neural correlates of rumination in depression.2010 Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience
自身に焦点を当てた繰り返される思考、すなわち反芻はうつ病の発症と維持を理解するために重要である。反芻はネガティブ気分を悪化させ、ネガティブ刺激に対する情動反応を増大し、ネガティブ記憶へのアクセスを促進する。本研究ではうつ病患者と健常者を対象に反芻の神経機構をfMRIを用いて検討した。我々は反芻、具体的な気ぞらし、抽象的な気ぞらしの相違を評価するための課題を14人のうつ病患者と14人の健常者に行った。うつ病患者はOFC、Subgenual ACC、DLPFCの活動亢進が反芻VS具体的な気ぞらしの比較でみられた。反芻VS抽象的な気ぞらしではAmygdala、Rostral ACC/MPFC、DLPFC,PCC,海馬傍回の活動がうつ病患者で亢進していた。これらの結果は反芻がうつ病における辺縁系、MPFC、DLPFCの機能亢進と関連することを示唆した。

考察ではDLPFCの活動に関して解釈が十分できないと書かれていた。おそらく反芻はうつ病患者では気ぞらしよりもワーキングメモリーを占有するので、DLPFCが活動するのかもしれない。単純にDLPFCが活動した方が気分が良くなるというわけではないようだ。

2011年5月27日金曜日

ニューロフィードバック:感情ネットワークの自己制御として有望なツール

Neurofeedback: A promising tool for the self-regulation of emotion networks 2011 Neuroimage

リアタイムfMRIはニューロフィードバックを通して脳機能のネットワークの自己制御を可能にする機会を生み出す。我々は、13人の被験者を対象に感情ネットワークをfMRIで個別に同定し、島と扁桃体の活動をコントロールできるように訓練を行った。被験者は短時間の訓練でこれらの脳機能を制御できるようになった。ニューロフィードバック中の感情ネットワークのコントロールに伴い楔前部とMPFC、線条体の活動増加がみられた。これらの結果は感情ネットワークのニューロフィードバックの実現可能性を示し、治療ツールとしての発展が可能であることを示唆する。

細かい方法が良く分からない研究だが、IAPSを見せて感情処理と関連して活動亢進のみられた領域を個人ごとにLocaliserとして同定した後に、Localiserの活動をフィードバックしたようである。Localiserの位置が微妙に被験者ごとに異なるのはこれで良いのだろうか?ニューロフィードバックの際の制御方略は教示していないようだが、ここで学習した制御方略を日常生活でも繰り返し用いることによって感情のコントロールが長期的に可能になれば新しい治療法になるかもしれない。技術的なハードルが高いが。

2011年5月25日水曜日

パニック障害の認知行動療法の後のトリプトファン減少の効果

Rapid tryptophan depletion following cognitive behavioural therapy for panic disorder. 2011 Psychophamacology

本研究の目的はパニック障害に対するCBTに治療反応を示した患者の急性のトリプトファン減少(Rapid tryptophan depletion:RTD)の効果を検討することである。RTDによってパニック症状の喚起による不安症状がベンゾジゼアピン阻害薬より上昇すると予測される。9人のCBTを受けたパニック障害患者はトリプトファンフリーのアミノ酸ドリンクとプラセボを飲む日を二重盲検で割り当てられた。さらにベンゾジゼアピン阻害薬とそのプラセボを別の時間に飲んだ。RTDとベンゾジゼアピン阻害薬の効果には交互作用があり、RTDに割り当てられ、CBTに反応した患者はベンゾジゼアピン阻害薬によるパニック症状の喚起によって不安症状が上昇した。パニック症状はRTDの有無の影響を受けなかった。この結果はCBTに反応を示した患者のRTDに対する脆弱性を示唆している。

うつ病のCBTで同様の研究があったが、その論文ではRTDの効果は無かった。この研究ではパニック症状そのものはRTDの影響を受けなかったので、RTDによるセロトニン系の脳部位の機能低下が不安を上昇させたと考えられる。

2011年5月24日火曜日

脅威の予期における主観的反応、自律反応、神経反応は脅威の強度と神経質傾向の機能によって変化する

Experiential, autonomic, and neural responses during threat anticipation vary as a
function of threat intensity and neuroticism Neuroimage 2010
予期に伴う情動反応はチャレンジに対して準備している主体にとって重要な役割を果たす。このような現象は行動的反応、自律反応、神経反応のシステムの変化がトリガーとなって生じる。本研究では、電気ショックによる予期不安のレベル(安全、中、大)を変化させることによって生じる行動生理的インパクトを検討した。これにより予期不安反応を幅広く検討することが可能になる。2つの研究により、95人と51人の女性の参加者を集め、電気ショックの予期課題とそれに伴う不安の評価とSCRを測定し(研究1)、fMRI測定を行った(研究2)。結果からは、不安の主観的評価とSCRにステップワイズな変化が示された。いくつかの脳領域は安全なトライアルに比べて電気ショックの予期に伴う顕著な活動がみられた。それには視床下部、PAG、尾状核、中心前回、視床、島、腹側前頭皮質、背側MPFC、ACCが含まれている。これらの領域は予期の程度に応じて線形的な活動の増加がみられた。これらの反応は神経質傾向によって調整されており、神経質傾向が高いと課題全体を通して不安が高い傾向があり、さらに中から大に至る試行における脳活動が減少していた。これらの知見から、神経質傾向は予期不安に対する感受性に影響しており、不安障害のリスクとの関連に対して新たな視点を示唆した。

神経質傾向はむしろ予期不安に対する脳活動を減衰するという研究。被験者数も多く、脳活動もこれまでの先行研究と同様の部位が出ているのでこの結果の信頼性は高いと思う。神経質傾向がむしろ予期不安に伴う脳活動を減らすという点は重要。おそらく、ベースラインの時点から予期不安が生じているので、ベースラインと比較したときに予期不安の条件の脳活動が相対的に低く算出されるのだろう。

2011年4月18日月曜日

ヒトにおける不安特性の脆弱性と関連した恐怖条件付けのメカニズム

Fear-conditioning mechanisms associated with trait vulnerability to anxiety in humans.
Indovina I, Robbins TW, Núñez-Elizalde AO, Dunn BD, Bishop SJ.
Neuron. 2011 Feb 10;69(3):563-71.
げっ歯類とヒトにおける恐怖条件付けの研究は、手がかり恐怖と文脈的恐怖の神経メカニズムを明らかにしてきた。重要な問題は、どのように不安特性のような次元が神経メカニズムを通して不安障害に対する脆弱性を引き出しており、そして動物モデルでは分からない制御スキルによって獲得された恐怖を乗り越えるヒトの能力がどのようになっているかということである。ヒトにおける恐怖条件付けの脳機能画像研究によって、我々は不安特性と関連した二つの独立した神経認知機能を見出した。一つは、持続的な恐怖手がかかりへの扁桃体の感度の増加である。2つ目は嫌悪条件付け刺激の消去の前の手がかり恐怖と文脈恐怖の制御にかかわる下前頭皮質の脆弱化である。これらの2つの次元は不安障害の相違を通して症候にかかわっていると考えられる。扁桃体のメカニズムは恐怖の発展に影響しており、前頭皮質のメカニズムは特定の恐怖の維持と不安の般化に影響する。

2011年4月13日水曜日

精神病のハイリスク群における脳機能は脳構造の異常と直接関連する:縦断的VBM-fMRI研究

Altered brain function directly related to structural abnormalities in people at ultra high risk of psychosis: longitudinal VBM-fMRI study.
Fusar-Poli P, Broome MR, Woolley JB, Johns LC, Tabraham P, Bramon E, Valmaggia L, Williams SC, McGuire P.
J Psychiatr Res. 2011 Feb;45(2):190-8
精神疾患の前駆症状を呈する人々には脳構造と脳機能に異常が認められることがこれまで示唆されている。しかし、これらの異常の縦断的転帰やそれらがどのように臨床症状や機能と関連するかは明らかになっていない。
精神病のハイリスク群のコホートを対象に、最初と一年後にN-back課題を用いたfMRIによる検討を行い、構造データも測定した。精神症状と全般的機能をCAARMS,PANNS,GAFを用いて測定した。
ベースライン時ではハイリスク群は課題遂行中に中前頭回、縁上回、下頭頂葉の活動現状が見られた。また、中前頭回、内側前頭前野、島、前帯状回の灰白質体積の減少が見られた。Biological parametric mappingによる解析では中前頭回の活動と構造の変化に正の相関が見られた。知覚障害、思考障害はフォローアップでは改善し、全般的な精神症状も改善した。さらに機能も改善した。これらの改善は前帯状回と海馬傍回の活動の縦断的増加と関連していた。前帯状回の活動の変化はGAFと直接相関していた。
精神病の前駆症状を示す被験者においてはワーキングメモリー課題遂行時の前頭皮質の活動の減少は同領域の灰白質の体積減少と関連していた。前帯状回の活動の変化は機能的改善と相関しており、前帯状回における多様な認知過程や社会的過程の役割と一致している。

BPMを使ってシンプルに構造画像と機能画像の関連を見ている。中前頭回が症状の改善と結局関連していない点はがっかりさせられるが。BPMは用途が多様なので、使いたいと思う。

2011年4月6日水曜日

瞳孔の反応を用いたうつ病に対する認知療法の予後:有用性と神経活動との相関

Remission prognosis for cognitive therapy for recurrent depression using the pupil: utility and neural correlates.
Siegle GJ, Steinhauer SR, Friedman ES, Thompson WS, Thase ME.
Biol Psychiatry. 2011 Apr 15;69(8):726-33.

うつ病患者の60%は認知療法に反応するが、臨床ではどの患者が認知療法を受けるべきかを知るための標準的なアセスメント方法を持っていない。安価で非侵襲的な指標により、患者は適切な治療を受けるように方向付けることができる。感情情報に対する瞳孔反応は辺縁系の活動と遂行機能を反映する良い候補である。本研究では1)治療前のネガティブ情報に対する瞳孔反応の測定が認知療法による改善と関連するかを検討し、2)それらの脳機能との関連を検討した。
我々は32人のうつ病患者の感情刺激に対する瞳孔反応が16~20セッションの認知療法の予後を予測するかを検討した。20人の患者はfMRIで同様の課題を行った。瞳孔反応は50人の健常者でも計測された。
症状の寛解の程度は治療前の症状が軽症であることとネガティブ刺激に対する瞳孔反応の低さと症状が重症であることのコンビネーションと関連していた(87%の確率で寛解と非寛解を分別、93%の感度、80%の特定性;88%の正確性で重症の患者を類別、90%の感度、92%の特定性)。瞳孔反応の増加は遂行機能、感情制御と関連したDLPFCの活動の増加と相関していた。
感情制御に由来する遂行機能障害の障害による症状の重症度は瞳孔反応の低下の持続によって示され、認知療法の寛解のための重要な鍵となるだろう。これらのメカニズムは安価で非侵襲的な心理生理学的アセスメントによって測定可能である。

2011年4月5日火曜日

うつ病における認知的感情制御の急性・持続性の効果

Acute and sustained effects of cognitive emotion regulation in major depression.
Erk S, Mikschl A, Stier S, Ciaramidaro A, Gapp V, Weber B, Walter H.
J Neurosci. 2010 Nov 24;30(47):15726-34

気分と情動の制御に関する機能障害はうつ病の重要な要素であり、抑うつを持続させる。fMRIを用いて、我々はうつ病患者と健常者の感情制御の時間的変化を検討し、感情制御による急性・持続性の神経活動への影響を検証した。うつ病患者17名と健常対照者17名は情動画像刺激呈示中にアクティブな認知的感情制御を行った。1つめの課題の15分後に行われた2つめの課題では、同じ画像刺激を受動的に呈示されるのみの課題を行った。全脳解析と結合解析により、脳活動と領域間の結合性に対する感情制御の急性・持続性の影響を検討した。集団解析ではうつ病患者はネガティブ感情を減少させることができ、扁桃体の活動も同様だったが、症状の重症度に伴ってその能力は減少した。さらに、健常者では15分後の2つめの課題においても扁桃体の活動への制御が持続していたが、うつ病患者では持続しなかった。患者では、アクティブな感情制御の際の前頭前野皮質の活動減少と前頭皮質-辺縁系の結合性が低下していた。患者においても症状の重症度に依存して感情制御を子ナウ能力は保持されているが、その効果は持続しないと言える。相関解析からは、このような持続的な感情制御の効果の減少は前頭前野における感情制御を行っている際の活動の減少と関連していることが示唆された。

パラダイムとしても興味深い構成になっているが、結果についてもインパクトがある。Johnstone et al (2007)でもうつ病患者と健常者に認知的制御遂行時の活動に差がみられずにDCMで差が見られていたが、この結果を追従している。それだけでなく、うつ病患者で感情制御の効果が持続しないということを示したという点も面白い。CBTのような治療によって効果が持続するようになるのかは今後の重要なポイントになるだろう。

2011年4月4日月曜日

再固定の更新機構を利用したヒトにおける恐怖の再現の妨害

Preventing the return of fear in humans using reconsolidation update mechanisms.
Schiller D, Monfils MH, Raio CM, Johnson DC, Ledoux JE, Phelps EA.
Nature. 2010 Jan 7;463(7277):49-53

近年の恐怖に関する研究は再固定(Reconsolidation)にターゲットが当てられている。再固定の最中には保存された情報が想起の後に変化しやすくなる。この段階での薬物の操作はのちに記憶の想起を出来無くさせるため記憶が削除もしくは恒久的抑制されることを示唆している。しかし、このような薬物の人体に対する使用は有害なために問題がある。本論文ではヒトにおける恐怖記憶の再固定に焦点を当てた非侵襲的な方法を紹介する。われわれは古い恐怖記憶は“再固定枠”の中で呈示された非恐怖記憶によって更新されうるというエビデンスを提示する。結果的に、恐怖反応はもはや表出されず、その効果は一年後まで持続しており、他の記憶に影響することなく恐怖記憶のみに選択的な影響があった。これらの知見は、感情に関する記憶を上書きするための機会としての再固定の適応的な役割を示唆しており、恐怖の再現を妨害するための人体にとって安全な非侵襲的な技術を示している。

1年前の論文でもありNatureではAbstractが日本語訳されているため、わざわざ載せる意味はないが、非常に興味深い論文だったので勉強のため読んだ。
不安障害に対する認知行動療法ではexposureによる恐怖条件付けの消去手続きを行う。臨床経験からは、exposureにより恐怖記憶を消去させるためにはexposureの際に恐怖がきちんと喚起される場面(CSとしての)にさらすことが必要だとされている。この論文は、このような臨床経験の理論的根拠になるものである。逆に再固定の際にCSを呈示しないような中途半端な消去手続きは恐怖記憶の単なる抑制であり、CSに再度曝されたときに恐怖の再現が起こることになり、治療失敗となると考えられる。

内容とは関係無いが、今日初めてこのブログの統計を見た。自分しかみていないという確信があったにもかかわらず、驚いたことに他の方からも見て頂いていた。
自分が興味を強く引かれた論文を忘れないように書いているだけのブログですが、よろしくお願いします。

2011年3月7日月曜日

短期の抗うつ薬の摂取はうつ病ハイリスク者の内側前頭前野におけるネガティブな自己関連づけを減衰する

Short-term antidepressant administration reduces negative self-referential processing in the medial prefrontal cortex in subjects at risk for depression
M Di Simplicio1,2, R Norbury1,3 and C J Harmer1
Mol Psychiatry. 2011 Mar 1
うつ病はMPFCにおける情動処理の変化と関連している。抗うつ薬が健常者に対してこのようなMPFCの活動を変化させることは明らかになっているが、うつ病ではまだ検討されていない。本研究は29名のうつ病ハイリスク者を二重盲検でプラセボとSSRI投与群に分けて7日間の投薬前後で自己関連づけ課題を行い、その際の脳機能をfMRIで測定した。気分の変動がみられないにもかかわらずネガティブ刺激に対するMPFCの活動はSSRIによって有意に低下した。抗うつ薬によりネガティブな自己関連づけに関与する脳機能が、うつ状態の被験者でも変容することが明らかになった。

自分の論文も引用されていたので掲載。段々と引用数が増えて10件以上になったことは良かった。同じ研究を継続するわけではないので将来の展開がないのは良くないが。

2011年2月10日木曜日

パニック障害患者がfMRIセッションで何を体験しているか

(Don't) panic in the scanner! How panic patients with agoraphobia experience a functional magnetic resonance imaging session.
Lueken U, Muehlhan M, Wittchen HU, Kellermann T, Reinhardt I, Konrad C, Lang T, Wittmann A, Ströhle A, Gerlach AL, Ewert A, Kircher T
Eur Neuropsychopharmacol. 2011 Jan 24

不安障害の脳機能画像研究の重要性は高まっているが、MRI装置によるストレスの影響は知られていない。本研究では広場恐怖のあるパニック障害の患者がfMRI実験を行ったときの苦痛や不安を調査した。マルチセンターfMRI研究により、89人の患者と健常者を対象にした。被験者は馴化や手助けになった方略を含め苦痛を事後報告した。脱落率とMRIデータのクオリティは研究の実行実現性の指標として適用した。不安の指標は装置内の不安とデータの欠落を増加させる脆弱性を特定するために用いられた。3人の患者はセッションの最初で脱落した。脱落率には差がなかったが、データのクオリティは患者の方が多少悪かった。苦痛の程度は明らかに患者の方が大きく、閉所恐怖は患者の苦痛とデータの質の悪さと関連していた。広場恐怖を持つパニック障害の患者のfMRI研究の現実性は証明された。今後の脳機能画像研究では患者においては苦痛の程度とデータのクオリティの関係を検討する必要があるだろう。

2011年1月26日水曜日

前帯状回および内側前頭前野における感情処理

Emotional processing in anterior cingulate and medial prefrontal cortex. Etkin, T Egner,A Trends in Cognitive Sciences, 2010
消去手続き1日目の背内側前頭前野と背側前帯状回の活動は、消去の過程よりも消去手続き1日目のCSに伴う恐怖の表出(恐怖の獲得ではなく)と関連していると考えられる。腹内側前頭前野と腹側前帯状回の活動は消去手続き開始1日目から2日目にかけて持続しており、これらの領域は扁桃体の機能抑制にともなう恐怖の制御に関連している。

情動処理におけるMPFCとACCの領域による機能の違いをこれまでのヒトを対象とした恐怖条件付けあ情動関連の脳機能画像研究から論じている。Bush et al 2000で言われているように背側が認知で腹側が感情というこれまでの見解と真逆の議論だが、これまでの情動関連の研究や気分障害を対象とした研究でもこのレビューと一致した結果が報告されているのを散見する。情動処理の議論に有用なレビューだと思う。

2011年1月13日木曜日

NIRSによるう診断についてのNatureに掲載された批評

Neuroscience: Thought experiment
Japanese hospitals are using near-infrared imaging to help diagnose psychiatric disorders. But critics are not sure the technique is ready for the clinic.

後輩が教えてくれた情報。この批評によると、NIRSを用いたうつ病と双極性障害の鑑別は時期尚早ではないかと述べられている。わざわざ著者がNIRSを体験したようで、自分のデータは健常者と言われたが、健常者よりもうつ病や双極性障害のパターンに近かったと述べている。この批評では他の研究者のコメントを引用してNIRSはまだ研究手法としてのみ有用であり、臨床で鑑別診断を行うことはまだ難しいのではないかということや、もともと日本で先進医療として適用になったときの評価委員会でも研究データのサンプルが少ないことなどが批判されたが、推進派の声が大きく採用されたと述べられている。
自分もNIRSを使っていたが、NIRSはかなりデータの信頼性や解釈の仕方が難しいと思うし、こういったNeuroimagingの手法を臨床応用するという考え方自体あまり将来性がないと感じている。ただ、この批評自体はデータを挙げて反論しているわけでもないので、説得力はそれほどないように思う。
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