2011年9月29日木曜日

疼痛の生物学的基盤に基づく測定に向けて:熱刺激による疼痛と非疼痛を区別する脳活動のパターン

Towards a physiology-based measure of pain: Patterns of human brain activity distinguish painful from non-painful thermal stimulation. 2011 PLoS One

疼痛は観察できる損傷が存在しなくても生じる。その為、疼痛の評価方法のゴールドスタンダードは長きにわたって自己報告による物だった。言語的コミュニケーションが不可能なために疼痛の管理が妨げられることから、研究者は自己報告に頼らない疼痛のアセスメントツールの開発に力を注いできた。これまでの努力は、臨床的に妥当性のある言語報告に変わる物を開発することに成功していない。近年のfMRI研究とSVM学習は認知状態を性格に評価することに組み合わせられて用いられてきた。そこで、我々はSVMとFMRIデータから自己報告無しで疼痛の評価が可能であるという仮説を立てた。fMRI実験には24人の被験者が参加し、疼痛と非疼痛刺激が呈示された。8人の被験者を用いて疼痛を区別できる脳活動をSVMを用いて全脳で探索した。我々はこの学習モデルを残りの未学習の16人の被験者でテストした。全脳のSVMは81%の精度で疼痛を区別できた。SVMハイパープレーンからの距離を用いることで精度は84%に上昇し、15%の刺激は分類が困難であった。SVMの全体的なパフォーマンスは、一次感覚野、二次感覚野、島、一次運動野、帯状回などの疼痛の処理過程に関わる領域の活動に大きく影響されていた。ROI解析からは個人脳の局所脳活動よりも全脳の活動の方が正確に分類できることが示唆された。我々の報告はSVMとfMRIにより被験者からのコミュニケーション成しに疼痛の評価が可能であることを示した。

脳活動のデータがクラスターが小さいのであまり見栄えが良くないが、研究の目的や意義は非常に興味深い。痛みに限らず感情などの認知状態の分別にも当然機械学習を用いることができる。

2011年9月28日水曜日

認知的再評価の実行ー維持モデルの検証

A test for the implementation-maintenance model of reappraisal 2011 Frontiers in Psychology

認知的再評価は感情刺激によって喚起される感情を変化するために、感情刺激を解釈したり始動する際に、意識的に着実な変化を生じさせる方法であると定義されている。認知的再評価は不安を含めてネガティブな情動をdown-regulateするために用いることもできる。現在、認知的再評価に媒介する認知過程や神経基盤を明らかにすることに関心が集まっている。我々は近年認知的再評価が時間的に変化し、ダイナミックで複数の要素を持つ過程であると概念化したIMMO(implementation - maintenance model)モデルを提唱した。IMMOの重要な主張は、認知的再評価のエピソードが方略の選択や作業記憶内での認知的再評価を行う題材の想起といった初期の実行段階と、作業記憶とパフォーマンスの監視過程を含む後期の維持過程によって特徴づけられるということである。これらの過程は異なる神経回路によってサポートされると思われる。我々は、脅威に対してdetatchmentするパラダイムとfMRIを用いて、認知的再評価と関連する脳活動が、認知的再評価のエピソードの進行に伴って外側前頭前皮質の後部から前部へ移行するという結果を見いだした。我々のデータは認知的再評価の2つの異なるステージの存在を初めて示した。

結果はクリアだが、予想された領域の変化ではなかったのではないだろうか?実験パラダイムはシンプルだが解析は複雑に見える。しかし、IMMOは説得力のあるモデルと思うので今後さらに検証を進めていくだろう。

2011年9月26日月曜日

溝にはまるうつ病:うつ病とその治療の再考

Stuck in a rut: rethinking depression and its treatment 2011 Trends in neurosciences

現在の大うつ病性障害の定義は、臨床と研究のために信頼できる診断基準を作ろうという努力から生じたものである。しかし、多くの研究があるにもかかわらず、大うつ病性障害の神経生物学的病態はほとんど明らかになっておらず、50-70年前と比較して今日の治療が有効であるとは言えない。ここに我々は現在のうつ病の概念が誤った基礎研究と臨床研究によって導かれたものであると提議する。再定義においては中核症状にさらに焦点を当てることが必要であり、可能である。しかし、我々はうつ病が気分状態そのものよりもネガティブな気分状態から抜け出すことができなくなるとする方が良い定義であると結論付けた。我々は改められた定義が将来の臨床研究と基礎研究にもたらす示唆についても議論を行う。

自分の考えていることは他者も大体同じことを考えるということだった。ネガティブ情動そのものではなく、その制御に失敗することがうつ病の病態であるという考え方は、認知行動療法におけるうつ病のとらえ方に近い。ネガティブ気分の発生メカニズムではなく維持するメカニズムを明らかにし、そこにターゲットを当てた治療(手段はどうあれ)へという方向に向かうのだろう。

2011年9月22日木曜日

うつ病における認知の機能障害:神経回路と新たな治療方略

Cognitive dysfunction in depression: Neurocircuitry and new therapeutic strategies. 2011 Neurobiology of Learning and Memory

大うつ病性障害は、著しい併存症と致命率、公衆衛生コストと関連した人を無力化する医学的状態である。しかし、うつ病の背景にある神経回路の異常は未だに完全に明らかにされておらず、結果として現在の治療の選択は不幸にも効果が制限されている。近年の知見はうつ病の認知の側面とその神経生理学的相関に焦点を当て始めている。大うつ病性障害で見られる認知の機能障害は大きく2つに分けられる。一つは認知バイアスであり、情報処理をゆがめネガティブ刺激へ注意を偏らせる。もう非乙は認知の欠損であり、注意の障害や短期記憶、遂行機能の障害を含む。本稿では我々はこれらの領域の知見をレビューし、認知バイアスと欠損の背景にある神経回路を示唆し始めている脳画像研究を検討する。我々は、認知機能の欠損、注意バイアス、,ネガティブ情動の維持といった大うつ病性障害の特徴が前頭ー辺縁系の機能障害の一部として理解でき、それには感情の認知的制御の障害も関連していると低減する。最後に、我々はこれらのメカニズムに基づいた新たな薬物療法と非薬物療法を参照する。

最後の方の新たな非薬物療法の下りは何かに使えそうである。

2011年9月10日土曜日

異なる基本的感情における神経連絡の異なる経路

Distinct pathways of neural coupling for different basic emotions 2011 Neuroimage

感情は皮質と皮質下構造に由来する複雑なイベントであるが、異なる感情の性質に関与する神経会との機能的統合のダイナミクスは未だに明らかになっていない。fMRIを用いて、我々は基本的感情(恐怖、嫌悪、悲しみ、幸福)の映像を提示することによって換気された神経反応を測定した。扁桃体と関連した皮質領域は、すべての基本的感情によって活動した。さらに、異なる層にある皮質領域および皮質下領域は各感情によって活動した。これらの知見は、すべての感情処理に関連する視覚野と扁桃体の機能的統合を検証するための領域特定的な3つのeffective connectivityモデルを示唆した。一つは恐怖と関連する適応的な準備反応に関わる前頭ー頭頂システムであり、二つ目は嫌悪と関連した混合した刺激に対する防衛反応を反映した身体感覚システムであり、3つ目は幸福と関連した享楽的相互作用を理解するための内側前頭前野と側頭ー頭頂皮質のシステムである。これらの領域特定的なモデルと一致してeffective connectivity解析の結果からは、扁桃体が基本的感情の感覚運動領域、身体感覚領域、認知的毒面を処理する皮質ネットワークに異なる機能的統合の影響に関わることを示唆した。effective connectivityネットワークの結果は、喚起された感情体験の質に基づいた運動と認知・行動の制御に有用であると思われる。

長いので細かいところはわからないが、扁桃体はすべての感情体験に関わるが、感情価によって関わる扁桃体に関わるネットワークやネットワークのノード間の関係性がかわるということをDCMで検証したということだろうと思う。

2011年9月3日土曜日

消去中のイメージによる書き直しを加えることでABAの復元効果減少を導く

Adding imagery rescripting during extinction leads to less ABA renewal 2011 Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry

消去は条件づけられた恐怖反応を減少せしめるのに非常に有効だが、消去の文脈外での恐怖反応の再発はしばしば生じる。本研究では、消去手続き中のイメージによる書き直しがUSの価値を下げ、単なる消去よりも復元効果が減少するかを検討した。70人の学生が恐怖条件付けパラダイムに従事した。CS+はUSが後に必ず出現し、CS-はUSが後に全く出現しなかった。全ての群において恐怖獲得は文脈Aで行われた。CS+,CS-に対する消去においてはUSは双方とも出現しなかった。3つの群で消去手続きを異なる文脈Bで行った(ABAデザイン)。4つ目の群では復元効果を検証するために恐怖獲得の際と同じ文脈Aで行った(AAAデザイン)。消去手続きの際には被験者はUSの価値を下げるようなイメージによる書き直し(ABAir)、イメージの全般的な影響をみるためにUSと関連のないイメージ(ABAcont)、そして、全く教示を行わない(ABAno、AAAno)のどれかに割り当てられた。その後文脈Aにおいてテストを行った。USの予期の評価による復元効果はABAirはABAnoよりも減少した。そして、ABAirではUSの価値下げが生じ、USの心的表象が変化したことを示唆した。これらの知見は、条件付け理論に沿うというだけでなく消去中のイメージによる書き直しが不安障害の治療に有用であることを示唆している。

正直に言ってSCRの反応が変わっていないので、データとしては不十分な結果だと思う。また、長期的な効果も分からないので復元効果を長期的に妨害するのかは不明である。ただ、Reconsolidationを妨害する際にこのようなUSの書き直しがどういう効果を持つのかは興味深い。
ツイート @freeroll_をフォロー