2012年5月25日金曜日

認知行動療法は慢性疼痛患者における疼痛と関連した前頭皮質の活動を増加させる

Treatment with cognitive behavioral therapy increases pain-evoked activation of the prefrontal cortex in patients suffering from chronic pain. 2012 PAIN

認知行動療法をベースにした介入は慢性疼痛に広く適用されているが、これらの治療の脳内メカニズムはほとんど理解されていない。本研究の目的は、慢性疼痛患者における曝露ベースの認知行動療法、ACTによる皮質コントロール理論の関連を検証することである。43人の女性の線維筋痛症の患者が12週間のCBT(25名)とウェイティングリスト(18名)に無作為割り付けした。CBTは12週間の1グループ6人構成のセッションで行われた。圧力によって喚起される疼痛の際のfMRIを12週間の治療前後で測定した。抑うつと不安の自己報告質問紙を治療前後と3カ月後のフォローアップで行った。CBTを受けた患者はPatient Groval Impression of Change measureにおいて線維筋痛症の大きな改善と抑うつと不安の改善がウェイティングリストと比較して見られた。しかし、臨床的な疼痛と疼痛感受性の尺度には効果が無かった。fMRIの解析からはCBTは腹側前頭前野、外側眼窩前皮質などの認知遂行機能にかかわる領域の活動増加を導いた。我々は認知行動療法が疼痛のシグナル、情動や認知といった疼痛に対する評価の遂行にかかわる機能の増加を導く皮質ループの変化を通して疼痛の脳内処理を変容したと考える。我々にデータは慢性疼痛に対するCBTに反応して皮質のコントロールメカニズムが活性するという仮説を支持するものである。

 おそらくAcceptance and Commitment therapyの脳画像研究としては初めての論文だろう。疼痛の感覚自体には効果が無いということから一般的なpain matrixの活動の変化はみられていない。疼痛刺激の呈示の仕方が圧力に基くものというのはどうかと思うが。もっとシステマティックに呈示する方法はたくさんある。

2012年5月24日木曜日

寛解うつ病における情動制御の欠落:制御方略、方略使用の習慣、そして情動価の影響



Neural correlates of emotion regulation deficits in remitted depression: The influence of regulation strategy, habitual regulation use, and emotional valence. 2012 Neuroimage


認知的再評価を通して情動制御はうつ病患者において異常な神経活動のパターンを喚起することが示されている。しかし、この欠落が他の情動制御方略に一般化されるか、患者が回復しても残存するのか、情動制御の習慣的使用と関連しているのかは明らかになっていない。そこで、我々はfMRIにおいて情動画像に対する神経活動を寛解うつ病患者と健常者に行った。画像を見ているときに被験者は喚起された情動を認知的再評価か気ぞらしのどちらかをもちいて制御した。習慣的な認知的再評価の使用はCognitive Emotion Regulation Questionnaireを用いて測定した。うつ病患者はネガティブ情動刺激に認知的再評価を行うときの扁桃体の活動のダウンレギュレーションが欠落していた。この扁桃体のダウンレギュレーションは認知的再評価を高頻度で用いる被験者において最も強固であった。前帯状回や外側眼窩前皮質を父君んだ制御ネットワークの活動はどちらの情動制御方略においても増大した。寛解うつ病患者におけるこの知見は、情動制御の変化はうつ病の特性マーカーであることが示唆された。この解釈は習慣的な認知的再評価の使用が扁桃体のダウンレギュレーションの達成と関連していることによって支持される。


非常に良いデザインの研究。目的も方法もレベルが高いが、唯一画像解析の方法があまり良くない。結果からは扁桃体の活動はpassive viewingでは群間差が見られなかったようだが、これは情動刺激に体する扁桃体の活動はtraitではなくstateであることを示唆している。確かに他の画像研究を見ても治療を行えばネガティブ刺激に体する扁桃体の活動は全般的に低下するという結果である。しかし、認知的再評価における扁桃体の活動の異常は寛解しても残るのであればネガティブ刺激に対する反応と異なり、traitとして残存するということだろう。

2012年5月23日水曜日

抑うつリアリズム:メタ分析的レビュー

Depressive realism: A meta-analytic review 2012 Clinical Psychology Review

本研究は抑うつリアリズムの最初のメタ分析の報告である。本論文では75の関連研究と7305人の被験者を検索した。結果からは、全体的に小さな抑うつリアリズムの効果(d=-.07)を示した。しかし、抑うつ気分と抑うつの被験者(d=.14)と非抑うつ気分と非抑うつの被験者(d=.29)両方で強固なポジティブバイアスが示されて、このバイアスは非抑うつ気分と非抑うつの被験者でより大きかった。潜在的な媒介変数の検討からは客観的なリアリティの基準が欠如している研究(d=-.15:基準のあるものではd=-.04)と抑うつ症上の測定を自己報告式にしている研究(d=.16:構造面接を用いているものではd=-.04)はより抑うつリアリズムが顕著に現れた。方法論的なパラダイムもまた抑うつリアリズムの一貫性に影響していること(d=-.09~14)が示された。

抑うつリアリズムは教科書に載っているほど強固な現象ではないようだ。リアリティの指標は絶対的な基準と相対的な基準両方を測定する必要がある。

2012年5月15日火曜日

人間における都市生活と都会化による神経社会ストレスの過程

City living and urban upbringing affect nerual social stress processing in humans 2011 Nature

昨日Nature neuroscienceの特集でsocial neuroscienceを扱っていたので、そこのレビューから見つけた。Natureは日本語要約があるので自分で作るのはやめた。Urbanicity scoreの算出方法が分かったらこれから先データをとっておこうと思う。社会的ストレスの定義や操作は簡単ではないが、神経基盤への影響はかなり大きく、精神疾患との関わりも深いことが示唆される研究と感じた。

2012年5月14日月曜日

精神疾患における社会的リスクに関する神経メカニズム

Neural mechanisms of social risk for psychiatric disorders 2012 nature neuroscience

精神的健康と社会生活は密接に相互作用しており、精神疾患において頻繁に社会的障害がみられ、劣悪な社会環境に曝露された人の精神障害の罹患率の増加からもそれが裏づけられている。ここでは、我々は精神疾患の社会的なリスク要因の神経メカニズムを焦点に当てるために疫学と社会心理学と神経科学の知見をレビューする。その際に、我々は社会的神経回路における一般的な遺伝的リスク要因の影響について議論し、脳における社会環境と遺伝的リスクのメカニズムを同定するために統合的なアプローチが必要であることを述べる。


2012年5月1日火曜日

実験薬理モデルを用いた抑うつと不安に対する薬物療法と認知的介入の併用効果の検討

Using an experimental medicine model to explore combination effects of pharmacological and cognitive interventions for depression and anxiety. 2011 Neuropsychopharmacology.

SSRIと認知療法は抑うつと不安に対して有効である。先行研究からはこれらの治療法は情動情報の処理における認知バイアスを変容することによって作動すると示唆されている。本研究ではSSRIと認知的介入の併用効果を情動バイアスと外的操作に対する抵抗性を測度として検討した。62人の健常者は7日間のシタロプラムかプラセボに割り付けられ、さらに認知バイアスのコンピュータートレーニングのアクティブ群とコントロール群に割り付けられた。治療後において、標準化された情動処理バイアスの測度を得た。 被験者の外的ストレスに対する抵抗性はネガティブ気分誘導によって生じるネガティブ気分によって測定した。シタロプラムと認知バイアストレーニングの両方を受けた被験者はそれぞれ単独の治療を受けた群よりも情動記憶と分類バイアスの変化が少なかった。シタロプラムを受けた情動情報の記憶の程度は、被験者の気分誘導に対する抵抗性を予測した。これらの結果はSSRIと認知トレーニングの併用は不安やうつ病に関連した情動処理において単独治療の効果を減退させる可能性を示唆した。さらに言えば、これらの知見は治療の認知的変化に焦点を当てることで、精神的健康における治療方略の併用の発展を示唆するものであろう。

意外にも併用はあまり効果が無いようだ。うつ病ではないし、アナログでも無いので、確定的なことは言えないが。 どういう認知訓練が併用効果があるのか、薬物療法の作用機序との関連が明らかになっていくと良いと思う。
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