2012年4月25日水曜日

情動制御の選択

Emotion-Regulation Choice 2011 Psychological Science
情動をどのように制御するのかという何百年もの憶測があるにもかかわらず、異なる強度のネガティブな状況にさらされたときに人間がどの情動制御方略を選択するのかは実際には分かっていない。情動制御の過程についての新たな概念に基づいて、我々は低強度のネガティブ状況において人間は再評価によって情動を制御することを選択する傾向があると予測した。しかし、高強度のネガティブ状況においては情動処理の早期に行われる気逸らしを用いて情動制御することを選好すると予測した。3つの条件において情動画像を用いた異なる強度の文脈と予測不可能な電気刺激の文脈を作成した。これらの情動文脈に反応して、被験者は再評価と気逸らしを選択した。結果からは、仮説がすべて指示された。このような情動制御方略の選択パターンは健康的な適応の理解において重要な示唆を示している。

短い論文であり、実験もシンプルだが情動制御の過程において個人の方略の選択が状況によって異なることを明快に説明している。ただ、実際に選んだ方略がどのように有効だったのか、末梢生理反応への影響はどうだったのか、選択に影響する個人差はなかったのかという点が気になるところだ。おそらく調べていると思うが。

2012年4月23日月曜日

未治療のうつ病における報酬と罰の逆転学習の腹側線条体の反応

Ventral striatum response during reward and punishment reversal learning in unmedicated major depressive disorder 2012 American Journal of Psychiatry

情動バイアスはうつ病の多くの症状の基盤にあり、アンヘドニアから認知的パフォーマンスに変化する。これらのバイアスの原因を理解することは、治療法の改善にとって非常に重要である。例えば、うつ病は逆転学習におけるネガティブな情動バイアスと関連する。しかし、逆転学習が健常者において線条体の反応を生じさせ、うつ病において様々な課題で線条体の反応が減少しているという事実があるにも関わらず、逆転学習におけるネガティブバイアスに関連したうつ病患者の線条体の関与は検討されていない。本研究では、このことが、予期されない罰の基盤となる逆転を検討する行動の研究のために通常用いられる逆転学習課題によって報酬と罰行動を適切に分類できないために生じる現象かどうかを検討することにした。報酬と罰の逆転が混在した逆転学習課題においてうつ病患者と健常者の脳機能の比較を行った。うつ病において予期されない報酬に対する前部腹側線条体の活動減少が、報酬の逆転に対する正確性の減少とともに示された。前部腹側線条体の神経心理的反応の減少は、眼窩前皮質、辺縁系、ドーパミン経路の求心性のサーキットの機能障害を反映しており、うつ病におけるアンヘドニアと関連している。喜びや楽しみの体験を学習することはうつ病の回復に重要である。本研究はそのような回復の神経ターゲットを正確に示した。

うつ病において一貫して観察されるのは報酬への感受性の低下のようだ。

2012年4月18日水曜日

セロトニン1AレセプターによるDMNの異なる調節

Differential modulation of the default mode network via serotonin-1A receptors 2012 PNAS

 自身の心的状態について考えを巡らすことは、生活上のイベントの自己関与度を評価したり、モラル的判断をしたり、将来を予想するための根源的な過程である。これらに関与するするデフォルトモードネットワーク(DMN)に対する関心は高まっているが、DMNの神経化学的メカニズムは知られていない。この研究ではPETとfMRIを組み合わせて5HT1AによるDMNへの調節を検討した。2つの独立したアプローチを用いて、安静時とTOL課題遂行時の膨大後部皮質の活動と局所的5HT1Aの密度が関連していることが明らかになった。一方で、5HT1Aのローカルなものと自己抑制能のものは後部帯状皮質と負の相関を示した。DMNの前頭部分は背内側前頭前野と負の相関を示した。これらの結果は、自己関連処理に関わるこれらの領域の調節がセロトニン系の神経伝達によってもたらされることを示し、5HT1AのバリエーションがDMNの活動における個人差をある程度説明することを示した。さらに、内受容的機能に関わる脳領域はとくに5HT1Aによって制御されていると考えられる。先行研究においてドーパミンやGABAの制御が報告されていることを合わせると、この局所的な特定性はDMNを駆動する複数の神経伝達物質の複雑な相互作用を示唆している。

業務上読まざるを得なかった論文だが、DMNの活動の個人差が神経伝達物質によって調節されるということは興味深い。今後はそういう方向の研究が増えそうだが、モノアミン系の神経伝達物質の機能だけでなくそれらと関わるような心理的活動とDMNがどのような相互作用を示すのかという点も研究材料になりそうだ。

2012年4月13日金曜日

アクセプタンスはどのような効果があるのか?実験研究のメタアナリシスレビュー

How effective are acceptance strategies? A meta-analytic review of experimental results. 2012 Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry

心理的アクセプタンスに関する実験的研究からはアクセプタンスが他の情動制御方略より優れているということに関して一致しない結果が示されている。アクセプタンスとその他の情動制御方略の実験的比較の結果について検討したレビューが欠けている。本論文ではそのギャップをメタアナリシスによって埋めることを目的とした。30の関連した研究を同定した。多くの研究からはアクセプタンスが疼痛の認容性、ネガティブ情動、思考の確信度において他の情動制御よりも優れていると報告している。メタ分析の結果は疼痛の認容性に関する知見を再現した。アクセプタンスは小から中程度の効果量を示した。疼痛の強度と情動に関してはメタアナリシスからはアクセプタンスと他の情動制御方略の間に有意差はみられなかった。要約すると、アクセプタンスは疼痛の認容性に関しては他の情動制御より優れていることが示された。将来の研究においてはアクセプタンスや他の情動制御方略に反応する被験者の個人差について検討するべきであろう。アクセプタンスは少なくとも慢性疼痛や抑うつに関して他の情動制御方略と同様に有用である。

アブストラクトのみ

2012年4月11日水曜日

ネガティブ情動の意図的制御と偶発的制御の重複した神経基盤

Overlapping Neural Substrates Between Intentional and Incidental Down-Regulation of Negative Emotions. 2012 Emotion.

感情制御は様々な経路で行われるが、異なる操作における神経認知基盤の重複を検討した研究は少ない。本研究では、意図的制御を行う課題と偶発的制御を粉う課題の2つの独立した課題を10人の被験者の扁桃体と前頭前野の活動を測定するために課して、これらの課題の波形にある神経基盤の潜在的な重複を同定することを目的にfMRIを行った。解析は扁桃体と下前頭回を関心領域として行った。両課題において扁桃体の活動は感情制御に伴って低下した。意図的制御においては扁桃体の活動低下は情動評価の低下を伴っており、偶発的制御の際には扁桃体の活動減少は自己報告の攻撃性と相関していた。重要なことは、被験者間において意図的制御における扁桃体の活動減少の程度が、偶発的制御における減少の程度と相関していたことであり、各課題は異なる日に行われたので、各課題における扁桃体の活動の指標も独立して抽出されたことである。さらに、下前頭回と扁桃体の結合性は、課題間において重複していた。結果からは、2つの課題は前頭前野の重複した関与を導き、扁桃体の共通した活動減少を、方略にかかわらず生じることを示した。意図的情動制御と偶発的情動制御は現象的には異なるものであるにもかかわらず、共通した神経認知的経路を喚起させると考えられる。

10人しか被験者がいないのに論文になるとは驚きである。おそらくこの2つの研究に両方参加した被験者が少なかったからではないだろうか?情動刺激のラべリング際に偶発的感情制御を行っていると言い切るところがすごい。

2012年4月4日水曜日

恐怖と不安の認知における神経生物学的相関:認知ー神経生物学的情報処理モデル

Neurobiological correlates of cognitions in fear and anxiety: A cognitive-neurobiological information-processing model. 2012 Cognition & Emotion

我々は恐怖や不安と関連した認知の神経生物学的基盤をレビューした。認知過程は返答隊や海馬、島と言った皮質かネットワークにおける注意過敏を反映した異常な活動と関連しており、その後の前帯状回や前頭皮質において行われる回避反応方略の活動も関連している。このようなエビデンスに基づいて、我々は恐怖や不安の認知神経生物学的情報処理モデルを提示し、近くされた脅威に対する情報処理の特定の段階における個別の脳領域との関連を示唆した。

あまりつながりがなさそうなauthor達だと思っていたが。さすがに内容がまとまっている。大変参考になった。

2012年4月3日火曜日

曝露と再構成:効果的な心理療法とはなにか、どのようなものか

Exposure and reorganization: The what and how of effective psychotherapy 2011 Clinical Psychology Review

心理療法の有効性は一般的に認知されているが、研究者はその有効性と心理療法によって喚起される変化のメカニズムについて適切な説明の同意が得られていない。このような研究領域の発展を促進するために、研究者は治療技法よりも治療の原理に焦点を当てるように呼びかけている。このような観点から、曝露技法は有益である。不安障害に対する一般的に用いられ、成果が得られているにもかかわらず、近年になってやっと他の疾患の治療として検討され始めている。曝露の原則に眼を向けることで、曝露が心理療法の成功の診断共通的な要素であると考えることが可能である。曝露をPerceptual Control Theory(PCT)の観点から理解することで、概念的あるいは統計的というよりも変化の機能的メカニズムとして同定することができる。機能的には、曝露は心理的苦痛の改善に必要な内的再構成に不可欠な前駆事象であると理解できる。PCTは心理療法において曝露についての検討と広い適用を治療の最適化と有効性の改善のために必要であると示唆している。心理療法の拡大化に比べて、治療の有効な要素の理解は同様に発展しているとは言えない。心理的苦痛解決に異なる多数のメカニズムやプロセスがあり、異なる心理療法が異なる要素で成り立っているとは考えにくい。実際のところ、様々な心理療法の多数の所産が有効に働くかどうかは、治療の重要な要素が記述されることや変化のメカニズムが同定されることの前に、おそらく一番重要なサインである。曝露という平凡なテクニックは心理療法の有効性にとって鍵となりうるものだろうか?心理療法にとって、ローマに続く一つの道があるのか?それともその道を通る様々な方法があるのか?

分かりにくい言い回しがあって読むのに苦労した。心理療法がどのようなメカニズムを持つのかという点は重要なはずだが、現場ではあまり気にされていない。この乖離を埋める努力として自分の研究が存在意義を持てるようにしたい。
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