2011年4月18日月曜日

ヒトにおける不安特性の脆弱性と関連した恐怖条件付けのメカニズム

Fear-conditioning mechanisms associated with trait vulnerability to anxiety in humans.
Indovina I, Robbins TW, Núñez-Elizalde AO, Dunn BD, Bishop SJ.
Neuron. 2011 Feb 10;69(3):563-71.
げっ歯類とヒトにおける恐怖条件付けの研究は、手がかり恐怖と文脈的恐怖の神経メカニズムを明らかにしてきた。重要な問題は、どのように不安特性のような次元が神経メカニズムを通して不安障害に対する脆弱性を引き出しており、そして動物モデルでは分からない制御スキルによって獲得された恐怖を乗り越えるヒトの能力がどのようになっているかということである。ヒトにおける恐怖条件付けの脳機能画像研究によって、我々は不安特性と関連した二つの独立した神経認知機能を見出した。一つは、持続的な恐怖手がかかりへの扁桃体の感度の増加である。2つ目は嫌悪条件付け刺激の消去の前の手がかり恐怖と文脈恐怖の制御にかかわる下前頭皮質の脆弱化である。これらの2つの次元は不安障害の相違を通して症候にかかわっていると考えられる。扁桃体のメカニズムは恐怖の発展に影響しており、前頭皮質のメカニズムは特定の恐怖の維持と不安の般化に影響する。

2011年4月13日水曜日

精神病のハイリスク群における脳機能は脳構造の異常と直接関連する:縦断的VBM-fMRI研究

Altered brain function directly related to structural abnormalities in people at ultra high risk of psychosis: longitudinal VBM-fMRI study.
Fusar-Poli P, Broome MR, Woolley JB, Johns LC, Tabraham P, Bramon E, Valmaggia L, Williams SC, McGuire P.
J Psychiatr Res. 2011 Feb;45(2):190-8
精神疾患の前駆症状を呈する人々には脳構造と脳機能に異常が認められることがこれまで示唆されている。しかし、これらの異常の縦断的転帰やそれらがどのように臨床症状や機能と関連するかは明らかになっていない。
精神病のハイリスク群のコホートを対象に、最初と一年後にN-back課題を用いたfMRIによる検討を行い、構造データも測定した。精神症状と全般的機能をCAARMS,PANNS,GAFを用いて測定した。
ベースライン時ではハイリスク群は課題遂行中に中前頭回、縁上回、下頭頂葉の活動現状が見られた。また、中前頭回、内側前頭前野、島、前帯状回の灰白質体積の減少が見られた。Biological parametric mappingによる解析では中前頭回の活動と構造の変化に正の相関が見られた。知覚障害、思考障害はフォローアップでは改善し、全般的な精神症状も改善した。さらに機能も改善した。これらの改善は前帯状回と海馬傍回の活動の縦断的増加と関連していた。前帯状回の活動の変化はGAFと直接相関していた。
精神病の前駆症状を示す被験者においてはワーキングメモリー課題遂行時の前頭皮質の活動の減少は同領域の灰白質の体積減少と関連していた。前帯状回の活動の変化は機能的改善と相関しており、前帯状回における多様な認知過程や社会的過程の役割と一致している。

BPMを使ってシンプルに構造画像と機能画像の関連を見ている。中前頭回が症状の改善と結局関連していない点はがっかりさせられるが。BPMは用途が多様なので、使いたいと思う。

2011年4月6日水曜日

瞳孔の反応を用いたうつ病に対する認知療法の予後:有用性と神経活動との相関

Remission prognosis for cognitive therapy for recurrent depression using the pupil: utility and neural correlates.
Siegle GJ, Steinhauer SR, Friedman ES, Thompson WS, Thase ME.
Biol Psychiatry. 2011 Apr 15;69(8):726-33.

うつ病患者の60%は認知療法に反応するが、臨床ではどの患者が認知療法を受けるべきかを知るための標準的なアセスメント方法を持っていない。安価で非侵襲的な指標により、患者は適切な治療を受けるように方向付けることができる。感情情報に対する瞳孔反応は辺縁系の活動と遂行機能を反映する良い候補である。本研究では1)治療前のネガティブ情報に対する瞳孔反応の測定が認知療法による改善と関連するかを検討し、2)それらの脳機能との関連を検討した。
我々は32人のうつ病患者の感情刺激に対する瞳孔反応が16~20セッションの認知療法の予後を予測するかを検討した。20人の患者はfMRIで同様の課題を行った。瞳孔反応は50人の健常者でも計測された。
症状の寛解の程度は治療前の症状が軽症であることとネガティブ刺激に対する瞳孔反応の低さと症状が重症であることのコンビネーションと関連していた(87%の確率で寛解と非寛解を分別、93%の感度、80%の特定性;88%の正確性で重症の患者を類別、90%の感度、92%の特定性)。瞳孔反応の増加は遂行機能、感情制御と関連したDLPFCの活動の増加と相関していた。
感情制御に由来する遂行機能障害の障害による症状の重症度は瞳孔反応の低下の持続によって示され、認知療法の寛解のための重要な鍵となるだろう。これらのメカニズムは安価で非侵襲的な心理生理学的アセスメントによって測定可能である。

2011年4月5日火曜日

うつ病における認知的感情制御の急性・持続性の効果

Acute and sustained effects of cognitive emotion regulation in major depression.
Erk S, Mikschl A, Stier S, Ciaramidaro A, Gapp V, Weber B, Walter H.
J Neurosci. 2010 Nov 24;30(47):15726-34

気分と情動の制御に関する機能障害はうつ病の重要な要素であり、抑うつを持続させる。fMRIを用いて、我々はうつ病患者と健常者の感情制御の時間的変化を検討し、感情制御による急性・持続性の神経活動への影響を検証した。うつ病患者17名と健常対照者17名は情動画像刺激呈示中にアクティブな認知的感情制御を行った。1つめの課題の15分後に行われた2つめの課題では、同じ画像刺激を受動的に呈示されるのみの課題を行った。全脳解析と結合解析により、脳活動と領域間の結合性に対する感情制御の急性・持続性の影響を検討した。集団解析ではうつ病患者はネガティブ感情を減少させることができ、扁桃体の活動も同様だったが、症状の重症度に伴ってその能力は減少した。さらに、健常者では15分後の2つめの課題においても扁桃体の活動への制御が持続していたが、うつ病患者では持続しなかった。患者では、アクティブな感情制御の際の前頭前野皮質の活動減少と前頭皮質-辺縁系の結合性が低下していた。患者においても症状の重症度に依存して感情制御を子ナウ能力は保持されているが、その効果は持続しないと言える。相関解析からは、このような持続的な感情制御の効果の減少は前頭前野における感情制御を行っている際の活動の減少と関連していることが示唆された。

パラダイムとしても興味深い構成になっているが、結果についてもインパクトがある。Johnstone et al (2007)でもうつ病患者と健常者に認知的制御遂行時の活動に差がみられずにDCMで差が見られていたが、この結果を追従している。それだけでなく、うつ病患者で感情制御の効果が持続しないということを示したという点も面白い。CBTのような治療によって効果が持続するようになるのかは今後の重要なポイントになるだろう。

2011年4月4日月曜日

再固定の更新機構を利用したヒトにおける恐怖の再現の妨害

Preventing the return of fear in humans using reconsolidation update mechanisms.
Schiller D, Monfils MH, Raio CM, Johnson DC, Ledoux JE, Phelps EA.
Nature. 2010 Jan 7;463(7277):49-53

近年の恐怖に関する研究は再固定(Reconsolidation)にターゲットが当てられている。再固定の最中には保存された情報が想起の後に変化しやすくなる。この段階での薬物の操作はのちに記憶の想起を出来無くさせるため記憶が削除もしくは恒久的抑制されることを示唆している。しかし、このような薬物の人体に対する使用は有害なために問題がある。本論文ではヒトにおける恐怖記憶の再固定に焦点を当てた非侵襲的な方法を紹介する。われわれは古い恐怖記憶は“再固定枠”の中で呈示された非恐怖記憶によって更新されうるというエビデンスを提示する。結果的に、恐怖反応はもはや表出されず、その効果は一年後まで持続しており、他の記憶に影響することなく恐怖記憶のみに選択的な影響があった。これらの知見は、感情に関する記憶を上書きするための機会としての再固定の適応的な役割を示唆しており、恐怖の再現を妨害するための人体にとって安全な非侵襲的な技術を示している。

1年前の論文でもありNatureではAbstractが日本語訳されているため、わざわざ載せる意味はないが、非常に興味深い論文だったので勉強のため読んだ。
不安障害に対する認知行動療法ではexposureによる恐怖条件付けの消去手続きを行う。臨床経験からは、exposureにより恐怖記憶を消去させるためにはexposureの際に恐怖がきちんと喚起される場面(CSとしての)にさらすことが必要だとされている。この論文は、このような臨床経験の理論的根拠になるものである。逆に再固定の際にCSを呈示しないような中途半端な消去手続きは恐怖記憶の単なる抑制であり、CSに再度曝されたときに恐怖の再現が起こることになり、治療失敗となると考えられる。

内容とは関係無いが、今日初めてこのブログの統計を見た。自分しかみていないという確信があったにもかかわらず、驚いたことに他の方からも見て頂いていた。
自分が興味を強く引かれた論文を忘れないように書いているだけのブログですが、よろしくお願いします。
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