2011年8月19日金曜日

前帯状回の体積と情動制御:大きいほど良い?

Anterior cingulate cortex volume and emotion regulation: Is bigger better? 2011 Biological Psychology

情動の機能障害は気分障害や不安障害の重要な特徴である。これらの障害の多くには情動制御にかかわる背側ACCなどの脳領域の体積減少と関連がある。健常者においてこれらの関連を検討することは情動制御と体積減少の間の繋がりを明らかにするだろう。高解像MRIを50人の女性健常者に対して行い、背側ACCを算出した。情動制御(認知的再評価と表出の抑圧)の特性尺度とネガティブ情動も得た。予測されたように、認知的再評価は背側ACCの体積と正の相関があったが腹側ACCの体積とは関連が無かった。抑圧やネガティブ情動、年齢は背側ACCの体積とは関連が無かった。これらの知見は健常者における認知的再評価の個人差は背側ACCの体積の個人差と関連があることを示唆した。

前に読んだメタ分析論文ではVMPFCが情動制御に共通して関わるという論文があったが、この論文では背側dACCが情動制御と関連があるということだった。多分、認知的再評価自体は間接的に腹側領域に影響を及ぼすということだろう。

2011年8月16日火曜日

状況の概念化における感情の基盤

Grounding emotion in situated conceptualization 2011 Neuropsychologia

Conceptual Act Theory of Emotionによると、状況を理解するために用いられる状況の概念化は感情体験を左右すると言われている。我々は2つの仮説を検証するための脳機能画像実験を行った。仮説1:異なる状況の概念化は異なる状況における同様の感情を異なる形式で生み出す。仮説2:状況の概念化の構造は、感情状態一般にかかわる脳部位に分布する多様な回路から生じる。これらの仮説を検証するために、ある状況における被験者の感情体験を操作した。各試行において、被験者は自身を身体的危険か社会的に評価される状況に没入し、恐怖や怒りを体験するようにした。仮説1に基くと、同様の感情における脳の活動は先行する状況によって機能が異なると考えられる。仮説2に基くと、重要な脳活動は現在の状況での感情と関連した概念処理を反映しており、感情の基盤にある多様な回路から引き出されるものと考えられる。結果からはこれらの予測が支持され、状況の概念化を生み出す構造のプロセスが示された。

この種の研究では稀なほど長い論文。あまりきちんと読めていないが、実験パラダイムは面白いと思う。ある状況をどのように概念化する、どのように意味づけるかという過程は高次の認知機能や心の理論とも関連しそうである。実際に脳活動も概念化に関して良く心の理論でいわれるような脳部位が活動しているようだった。

2011年8月13日土曜日

恐怖は心の許す限り深い:ネガティブ感情の制御に関する脳機能画像研究の座標ベースのメタ分析

Fear is only as deep as the mind allows: A coordinate-based meta-analysis of neuroimaging studies on the regulation of negative affect 2011 Neuroimage

ヒトはネガティブ感情や恐怖をコントロールする能力を持つ。しかし、感情制御の能力が異なる体験の領域を通して共通の神経メカニズムに依存するもんかどうかは明確になっていない。ここでは我々は恐怖消去、プラセボ、認知的感情制御といった制御に関する脳活動の共通性を同定することを試みた。座標ベースのメタ解析を用いて、我々は被験者がネガティブ感情を減少させたときの活動上昇と活動低下する領域を明らかにしようとした。結果からはVMPFCが共通してネガティブな情動反応をコントロールし主観的な不快感を減少させることが示唆された。ネガティブ情動の減少は左の扁桃体の活動減少に伴って生じていた。最後に、恐怖消去では見られなかったがプラセボと認知的感情制御における鎮静効果はACCと島の活動上昇に伴うものだった。まとめると、我々のデータはVMPFCが、不快感感情処理システムをになう系統発生学的に古い構造におけるネガティブ情動反応を制御する恐怖や不快感の概括的なコントローラーであることを強く示唆した。さらに、高次の制御方略は情動的イベントに効果的に対応するために、さらに補足的に神経のリソースを必要とすることが示唆された。

“Fear is only as deep as the mind allows”は何かの格言らしいが、恐怖はヒトの主観だからどの程度恐怖を感じるかはヒトの心しだいということか。VMPFCは共通のネガティブ情動のコントローラーということだが、むしろ制御方略の違いは他の領域からVMPFCへの影響にあらわれるのかもしれない。

2011年8月5日金曜日

うつ病における自伝的記憶再生の欠如の機能解剖学的構造

Functional anatomy of autobiographical memory recall deficits in depression. 2011 Psychological Medicine

うつ病には特定的な自伝的記憶の再生の欠如があると言われている。広範囲の研究によって健常人における自伝的記憶の機能解剖学的相関が検討されているが、うつ病における自伝的記憶の神経生理学的基盤は検討されていない。本研究の目的は、自伝的記憶の再生中の血行動態の相違を健常者とうつ病で比較することである。12人のうつ病患者と14人の健常者はポジティブ語、ネガティブ語、中性語などの手がかりに反応した自伝的記憶の再生中にfMRIを行った。記憶の再生と引き算問題を対象したときの血行動態をうつ病患者と健常者で比較した。さらに、パラメトリック線形分析によって喚起の程度と関連している領域を検討した。行動データはうつ病において特定性、ポジティブ記憶の減少がみられ、喚起と親近性は増加した。海馬周辺のBOLD反応は健常者において高かった。島の前部の活動は特定的な自伝的記憶の再生時に低く、うつ病患者においてはさらに減少していた。ACCの活動は健常者においては喚起の程度と正の相関があり、うつ病患者では相関が無かった。我々は、うつ病患者と健常者の比較において特定的な自伝的記憶が減少しており、分類的な自伝的が増加することを確認した。また、自伝的記憶の検索にかかわる内側側頭葉、前頭葉の活動はうつ病患者と健常者で異なることが明らかになった。これらの神経生理学的欠如はうつ病における自伝的記憶の欠如の基盤になっていると思われる。

うつ病の認知は記憶や情動、自己評価や将来の見通しなどと多岐にわたって神経基盤が調べられているが、それぞれの認知がどのようにうつ病に影響しているのかを総合して理解できるようになったら良いと思う。

2011年8月3日水曜日

情動をどのように制御するのか?再評価と気逸らしの神経ネットワーク

How to Regulate Emotion? Neural Networks for Reappraisal and Distraction 2011 Cerebral Cortex
情動の制御は社会環境における適応的行動に重要である。情動制御の達成には注意コントロール(気逸らし)から認知的変化(再評価)まで様々な方略が適用される。しかし、異なる制御方略を神経メカニズムと感情体験への影響という観点から比較したエビデンスは不十分である。そこで、我々は情動画像に対する再評価と気逸らしをfMRIで直接比較した。気逸らしにおいては被験者は計算課題を行い、再評価では情動的状況を再解釈した。どちらの方略も主観的な感情体験の減少と扁桃体の活動の減少がみられた。しかし、再評価と直接比較すると、気逸らしにおいては扁桃体の活動がより減少していた。一方で、どちらの方略においてもMPFC,DLPFC、下後頭皮質が関与しており、OFCは再評価のときに選択的に活動していた。対照的に、背側ACC,後頭葉の広範な領域が気逸らしに関与していた。扁桃体との機能的結合の違いは2つの情動制御方略に特異的な活動の役割を明らかにした。

Macrae et al (2010)を踏まえた研究となっている。特徴的なのは、情動を喚起する前に情動制御方略の教示をするべきではなく、情動を喚起した後に情動制御方略の教示をするべきとした点。確かに喚起される前だと情動が喚起される前に制御を行ってしまう可能性もあり、その後の脳活動が情動の生起と制御方略で行楽してしまう。

2011年8月1日月曜日

抗うつ薬の脳への影響:感情研究のメタ分析

Brain effects of antidepressants in major depression: A meta-analysis of emotional processing studies 2011 J Affect Dis

多くのPET研究によってうつ病における一貫した脳活動のパターンが特定されている。このような機能障害を表すパターンは抗うつ治療によって正常化されるとみられる。このメタ分析の目的はfMRIの感情研究を用いて抗うつ治療の後のうつ病の改善と関連した脳活動のパターンをより明確に特定することである。9つのfMRI研究とPET研究にQuantitative Activation Likelihood Estimation(ALE)を行った。抗うつ治療の後、DLPFC、VLPFC,DMPFCの活動は増加し、扁桃体、海馬、VACC、OFC、島の活動は減少するという結果だった。さらに、ACC、PCCと同様に楔前部と下頭頂葉の活動の減少はデフォルトモードネットワークの不活性化の回復を反映しているとみられた。大うつ病にかかわるいくつかの脳領域は抗うつ治療によって正常化されることが示唆された。うつ病における感情処理の神経基盤に対する抗うつ治療の影響をリファインしていくためにはうつ症状にかかわる感情課題やデフォルトモードネットワークにかかわるような自己関連づけ課題を用いるべきである。

ポジティブ感情に関連したDMPFCの活動は抗うつ薬で増加するようである。抗うつ治療といってもCBTの場合は薬と違って統制が困難であるためほとんど脳機能画像研究が無い。抗うつ薬とCBTの違いや相乗効果の背景にどのような神経基盤があるのか研究する必要がある。
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