2011年10月29日土曜日

うつ病治療の認知メカニズム

Cognitive mechanisms of treatment in depression 2011 Neuropsychopharmacology

認知の以上はうつ病の中核的特徴であり、感情情報に対するネガティブなバイアスも同様だが、それはうつ病の症状の原因なのか結果だろうか?ここでは、我々はうつ病の“認知神経心理学的”モデルを提案し、ネガティブな情報処理のバイアスがうつ病症状の生起の中核的な原因であることを示し、このバイアスを根絶することによって治療において有益であることを示す。我々は,
現在のうつ病患者については簡潔に、うつ病のハイリスク群と抗うつ治療については詳細に、このモデルと関連したエビデンスをレビューする。現在のうつ病患者と同様にネガティブバイアスは神経質傾向や遺伝的リスク、以前のうつ病の罹患歴などの為にうつ病の脆弱性として見いだされる。近年のエビデンスは抗うつ薬と心理療法がネガティブバイアスを修正し、うつ病の治療の理解に共通したメカニズムが有るという強力な証左を示している。興味深いことに、どの患者にどのような治療が適しているかを予測することも可能であると思われる。しかし、ネガティブバイアスがうつ病を予測し、発見し、治療し慢性化や再発を防ぐために有用かどうかはさらに検証する必要が有る。

ネガティブな認知がうつ病の原因かどうかという問いに対して重要な問題提起を行っていると思う。このようなメジャーな学術誌でこういった議論が出てくるのは自分にとっては好ましい。しかし、実際のところCBT的には認知バイアスがうつ病の原因か結果かという因果関係はそれほど重要でなく、うつ症状の悪循環の一端を担っているというだけで治療ターゲットになる。そう考えると因果関係のモデルではなく、循環モデルを神経科学的に提案することができるほうが望ましい。

2011年10月28日金曜日

リアルタイムfMRIニューロフィードバックを用いた扁桃体の活動の自己制御

Self-regulation of amygdala activation using real-time fMRI neurofeedback 2011 PLoS One

リアルタイムfMRIによるニューロフィードバックは、自分自身の刺激に体する反応と関連した神経生理学的機能の調節をリアルタイムフィードバックを用いて学習する際の被験者の脳の神経可塑性を検討することを可能にした。我々は、感情処理に重要な役割を果たす扁桃体の活動を自己制御するためのトレーニングの実現可能性を検討した。実験群の被験者は左側扁桃体のBOLDシグナルについて継続的に情報を与えられ、ポジティブな自伝的記憶の想起によってBOLDシグナルを上昇させるように教示された。一方で、コントロール軍では同様の課題を行ったが、頭頂間溝のBOLDシグナルをフィードバックした。扁桃体において、有意なBOLDシグナルの上昇が実験群においてみられた。この効果はフィードバックを行っていない状態でも残存した。実験群における扁桃体のBOLDシグナルの変化は、Tront alexithymia scaleの感情同定困難と負の相関が見られた。全脳の解析からはポジティブ記憶の想起において実験グンとコントロール群で有意差がみられた。機能的結合の解析からは扁桃体は前頭ー側頭ー辺縁ネットワークの広範な領域と相関していた。さらに、内側前頭極、内側前頭前野、前帯状回、上前頭皮質と扁桃体の機能的結合は、ニューロフィードバック中もそれ以外のときにも上昇していた。以上の結果は、健常者が扁桃体の活動をニューロフィードバックによって制御する方法を学習したことを示しており、神経精神疾患患者の治療への適用可能性を示唆するものである。

ニューロフィードバックによって扁桃体を直接制御可能という点は、我々にとって朗報だがポジティブ記憶を用いて上昇させるという点が臨床的に有意義だろうか?また、特定の方略をあらかじめ示唆するのは、本来のバイオフィードバックにおけるオペラント学習による自発的な制御方略の獲得とは少し異なるように思う。

2011年10月17日月曜日

全般的社会不安障害における悲しみ表情に対する内側前頭前野の過活動とオキシトシンによる調整

Medial frontal hyperactivity to sad faces in generalizes social anxiety disorder and modulation by oxitocin 2011 International Journal of Neuropsychopharmacology

全般性社会不安障害(GSAD)は脅威と関連したネガティブな社会的キューに対する辺縁系と前頭前野の活動の高まりと関連須津が、社会的に脅威でないネガティブな刺激に対する脳の反応はほとんど知られていない。神経ペプチドのオキシトシンは恐怖と関連した脳活動を減衰したりネガティブ刺激を再活性化することが示唆されている。我々はGSADと健常者を対象に非脅威的な悲しみ表情に対する皮質の活動への鼻腔からのオキシトシン注入の効果を検討した。被験者内二重盲検試験により、悲しみ表情と幸福表情に対する脳活動をオキシトシン、もしくはプラセボ注入後にfMRIで測定した。健常者と比較して、GSADでは悲しみ表情に対するMPFCとACCの活動上昇がみられた。オキシトシンは有意にこれらの領域の活動を減少させ、健常者と同レベルにした。これらの知見はGSADが非脅威的なネガティブな社会的刺激に対する皮質の活動と関連しており、オキシトシンんがこれらの脳活動を減衰することを示している。オキシトシンによる皮質の活動への調整は,GSADにおける社会的にネガティブな刺激の調整に対して神経ペプチドに広範な役割があることを強調するものである。

MPFCつながりで自分の論文を引用してもらっていた。わざわざ用いた刺激が社会不安障害にとって非脅威的だがネガティブ刺激であるということを書いているが、それが扁桃体や島の活動がみられなかった理由になっているようだ。扁桃体や島に体するオキシトシンの影響も検討できるとさらに良い結果だったのだろう。

2011年10月14日金曜日

顔表情の処理における機能的結合:複数の平行経路のエビデンス

Effective connectivity during processing of facial affect: Evidence for multiple parallel pathways. 2011 Journal of Neuroscience

顔表情の知覚には皮質領域のネットワークが関与する。我々はfMRIとDCMを用いて顔表情刺激の顕在的な分類における機能的結合を検討した。特に、我々は情動の分類における顔処理のネットワークにおける後部領域からVLPFCへの結合と、その中で扁桃体がこのネットワークにどのように媒介しているかを検討した。我々は顔表情の処理において下頭頂領域からVPFCへの結合性の上昇を見いだしたが、紡錘状回と扁桃体からVPFCへの求心性の結合性は見いだせなかった。さらに、下頭頂領域からVPFCへの結合性は怒り表情のみ認められた。また、ベイズモデルによる比較ではVPFCへの求心性の結合性は、扁桃体によって調節される間接的な影響とは異なり、顔表情によって直接的に調節されることが示唆された。我々の結果は、VPFCへの情動情報は複数の平行経路を介してもたらされ、扁桃体の活動は顕在的な感情処理の際には情報の移動を十分に説明しないことを示した。

顔認知課題はうつ病においてfMRIによる検討がよく行われているが、このようなDCMによるネットワーク解析は行われていない。この論文のDiscussionでは情動処理における扁桃体の役割が前頭領域まで及んでいないことを示唆している。顔認知課題で扁桃体の活動を出すには、閾値下認知にした方が良いし、役割としても妥当ということか。今後の展開がどうなるかわからないが。顕在的な顔表情認知においては前頭皮質の役割がかなり大きいのだろう。
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