2011年3月7日月曜日

短期の抗うつ薬の摂取はうつ病ハイリスク者の内側前頭前野におけるネガティブな自己関連づけを減衰する

Short-term antidepressant administration reduces negative self-referential processing in the medial prefrontal cortex in subjects at risk for depression
M Di Simplicio1,2, R Norbury1,3 and C J Harmer1
Mol Psychiatry. 2011 Mar 1
うつ病はMPFCにおける情動処理の変化と関連している。抗うつ薬が健常者に対してこのようなMPFCの活動を変化させることは明らかになっているが、うつ病ではまだ検討されていない。本研究は29名のうつ病ハイリスク者を二重盲検でプラセボとSSRI投与群に分けて7日間の投薬前後で自己関連づけ課題を行い、その際の脳機能をfMRIで測定した。気分の変動がみられないにもかかわらずネガティブ刺激に対するMPFCの活動はSSRIによって有意に低下した。抗うつ薬によりネガティブな自己関連づけに関与する脳機能が、うつ状態の被験者でも変容することが明らかになった。

自分の論文も引用されていたので掲載。段々と引用数が増えて10件以上になったことは良かった。同じ研究を継続するわけではないので将来の展開がないのは良くないが。

2011年2月10日木曜日

パニック障害患者がfMRIセッションで何を体験しているか

(Don't) panic in the scanner! How panic patients with agoraphobia experience a functional magnetic resonance imaging session.
Lueken U, Muehlhan M, Wittchen HU, Kellermann T, Reinhardt I, Konrad C, Lang T, Wittmann A, Ströhle A, Gerlach AL, Ewert A, Kircher T
Eur Neuropsychopharmacol. 2011 Jan 24

不安障害の脳機能画像研究の重要性は高まっているが、MRI装置によるストレスの影響は知られていない。本研究では広場恐怖のあるパニック障害の患者がfMRI実験を行ったときの苦痛や不安を調査した。マルチセンターfMRI研究により、89人の患者と健常者を対象にした。被験者は馴化や手助けになった方略を含め苦痛を事後報告した。脱落率とMRIデータのクオリティは研究の実行実現性の指標として適用した。不安の指標は装置内の不安とデータの欠落を増加させる脆弱性を特定するために用いられた。3人の患者はセッションの最初で脱落した。脱落率には差がなかったが、データのクオリティは患者の方が多少悪かった。苦痛の程度は明らかに患者の方が大きく、閉所恐怖は患者の苦痛とデータの質の悪さと関連していた。広場恐怖を持つパニック障害の患者のfMRI研究の現実性は証明された。今後の脳機能画像研究では患者においては苦痛の程度とデータのクオリティの関係を検討する必要があるだろう。

2011年1月26日水曜日

前帯状回および内側前頭前野における感情処理

Emotional processing in anterior cingulate and medial prefrontal cortex. Etkin, T Egner,A Trends in Cognitive Sciences, 2010
消去手続き1日目の背内側前頭前野と背側前帯状回の活動は、消去の過程よりも消去手続き1日目のCSに伴う恐怖の表出(恐怖の獲得ではなく)と関連していると考えられる。腹内側前頭前野と腹側前帯状回の活動は消去手続き開始1日目から2日目にかけて持続しており、これらの領域は扁桃体の機能抑制にともなう恐怖の制御に関連している。

情動処理におけるMPFCとACCの領域による機能の違いをこれまでのヒトを対象とした恐怖条件付けあ情動関連の脳機能画像研究から論じている。Bush et al 2000で言われているように背側が認知で腹側が感情というこれまでの見解と真逆の議論だが、これまでの情動関連の研究や気分障害を対象とした研究でもこのレビューと一致した結果が報告されているのを散見する。情動処理の議論に有用なレビューだと思う。

2011年1月13日木曜日

NIRSによるう診断についてのNatureに掲載された批評

Neuroscience: Thought experiment
Japanese hospitals are using near-infrared imaging to help diagnose psychiatric disorders. But critics are not sure the technique is ready for the clinic.

後輩が教えてくれた情報。この批評によると、NIRSを用いたうつ病と双極性障害の鑑別は時期尚早ではないかと述べられている。わざわざ著者がNIRSを体験したようで、自分のデータは健常者と言われたが、健常者よりもうつ病や双極性障害のパターンに近かったと述べている。この批評では他の研究者のコメントを引用してNIRSはまだ研究手法としてのみ有用であり、臨床で鑑別診断を行うことはまだ難しいのではないかということや、もともと日本で先進医療として適用になったときの評価委員会でも研究データのサンプルが少ないことなどが批判されたが、推進派の声が大きく採用されたと述べられている。
自分もNIRSを使っていたが、NIRSはかなりデータの信頼性や解釈の仕方が難しいと思うし、こういったNeuroimagingの手法を臨床応用するという考え方自体あまり将来性がないと感じている。ただ、この批評自体はデータを挙げて反論しているわけでもないので、説得力はそれほどないように思う。

2010年12月13日月曜日

うつ病における認知的再評価の、急性および持続性の効果

Acute and Sustained Effects of Cognitive Emotion Regulation in Major Depression
Susanne Erk,1 Alexandra Mikschl,2 Sabine Stier,2 Angela Ciaramidaro,3 Volker Gapp,2 Bernhard Weber,2 and Henrik Walter1,4
The Journal of Neuroscience, November 24, 2010, 30(47):15726-15734
うつ病患者と健常者に対して、視覚的感情刺激に対する認知的再評価を行う課題を実施した。15分後に視覚的感情刺激を受動的に観察するだけの課題を実施した。認知的再評価を行っているときには、患者もネガティブ感情を扁桃体の活動と伴に低下させた。一方で、低下の程度は重症度と関連していた。さらに、観察課題では健常者では持続的に扁桃体の活動の低下を維持できていたが、うつ病患者では維持できなかった。Connectivity解析ではうつ病患者では前頭葉と扁桃体の連結が低下しており、認知的再評価の際の前頭葉の活動低下が観察課題における扁桃体の活動低下の維持と関連していた。

2010年8月9日月曜日

感情制御と不安障害:統合的批評

EmotionRegulationandtheAnxietyDisorders:AnIntegrativeReview
JoshM.Cisler & BunmiO.Olatunji &MatthewT.Feldner & JohnP.Forsyth
JPsychopatholBehavAssess(2010)32:68–82

この10年ほど、感情制御の構造に関する検討は増加しており、それから不安障害の理論についても重要な示唆が得られている。本論文は、以下の3つの研究を批評した。
1.概念的、行動的神経科学的レベルで感情制御について個別に扱った研究
2.感情制御の方略によっては恐怖を増強したり減衰したりすること
3.感情制御が単なる感情の活性化では説明できる以上の不安障害の分散を説明すること。我々は、不安障害の病態において感情制御の機能を説明するモデルを提起する。

コメント
久しぶりの更新。やろうと思ってもできない状態が続いていたが、やっとできた。
内容はともかく継続できるようにしよう。
この論文の内容自体に目新しいものは無いものの、不安障害の病態モデルに感情制御の障害を入れてくれたことで、こちらの研究はやりやすくなる。

2010年6月29日火曜日

脳機能画像研究における疑陽性の統制方法について

Craig M. Bennett1, George L. Wolford2 and Michael B. Miller 2009 The principled control of false positives in neuroimaging Soc Cogn Affect Neurosci 4 (4): 417-422.

脳機能画像研究は大量の変数を扱うため、統計結果の疑陽性は大きな議論の的になる。FDRやFWEのような疑陽性の確率を推定する補正を行うと、補正なしの結果で出た領域が一つも残らないことがある。もし、あるJournalに乗った論文が補正なしの結果で、自分のデータが補正して何も残らなかった場合、Journalに乗っている論文が世間に受け入れられることになり、その後の結果の再現性が困難になる。そのようなことを勘案すれば、補正を行った研究で示された結果を基本的には参考にすべきであろう。
高インパクトファクターのJounralに乗っている脳機能画像研究のうち、補正なしのデータは約30%だが、脳機能画像研究全体では約60%が補正なしの論文である。
しかし、FWEなどの補正を行うことについては、得られる結果がConservativeになりすぎるという声もある。われわれは、補正なしの結果を載せる場合には、補正を行った場合の結果も併記することにより、読者が疑陽性の可能性を含めて公平に論文を読むことができると主張したい。
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