Acute and sustained effects of cognitive emotion regulation in major depression.
Erk S, Mikschl A, Stier S, Ciaramidaro A, Gapp V, Weber B, Walter H.
J Neurosci. 2010 Nov 24;30(47):15726-34
気分と情動の制御に関する機能障害はうつ病の重要な要素であり、抑うつを持続させる。fMRIを用いて、我々はうつ病患者と健常者の感情制御の時間的変化を検討し、感情制御による急性・持続性の神経活動への影響を検証した。うつ病患者17名と健常対照者17名は情動画像刺激呈示中にアクティブな認知的感情制御を行った。1つめの課題の15分後に行われた2つめの課題では、同じ画像刺激を受動的に呈示されるのみの課題を行った。全脳解析と結合解析により、脳活動と領域間の結合性に対する感情制御の急性・持続性の影響を検討した。集団解析ではうつ病患者はネガティブ感情を減少させることができ、扁桃体の活動も同様だったが、症状の重症度に伴ってその能力は減少した。さらに、健常者では15分後の2つめの課題においても扁桃体の活動への制御が持続していたが、うつ病患者では持続しなかった。患者では、アクティブな感情制御の際の前頭前野皮質の活動減少と前頭皮質-辺縁系の結合性が低下していた。患者においても症状の重症度に依存して感情制御を子ナウ能力は保持されているが、その効果は持続しないと言える。相関解析からは、このような持続的な感情制御の効果の減少は前頭前野における感情制御を行っている際の活動の減少と関連していることが示唆された。
パラダイムとしても興味深い構成になっているが、結果についてもインパクトがある。Johnstone et al (2007)でもうつ病患者と健常者に認知的制御遂行時の活動に差がみられずにDCMで差が見られていたが、この結果を追従している。それだけでなく、うつ病患者で感情制御の効果が持続しないということを示したという点も面白い。CBTのような治療によって効果が持続するようになるのかは今後の重要なポイントになるだろう。
2011年4月5日火曜日
2011年4月4日月曜日
再固定の更新機構を利用したヒトにおける恐怖の再現の妨害
Preventing the return of fear in humans using reconsolidation update mechanisms.
Schiller D, Monfils MH, Raio CM, Johnson DC, Ledoux JE, Phelps EA.
Nature. 2010 Jan 7;463(7277):49-53
近年の恐怖に関する研究は再固定(Reconsolidation)にターゲットが当てられている。再固定の最中には保存された情報が想起の後に変化しやすくなる。この段階での薬物の操作はのちに記憶の想起を出来無くさせるため記憶が削除もしくは恒久的抑制されることを示唆している。しかし、このような薬物の人体に対する使用は有害なために問題がある。本論文ではヒトにおける恐怖記憶の再固定に焦点を当てた非侵襲的な方法を紹介する。われわれは古い恐怖記憶は“再固定枠”の中で呈示された非恐怖記憶によって更新されうるというエビデンスを提示する。結果的に、恐怖反応はもはや表出されず、その効果は一年後まで持続しており、他の記憶に影響することなく恐怖記憶のみに選択的な影響があった。これらの知見は、感情に関する記憶を上書きするための機会としての再固定の適応的な役割を示唆しており、恐怖の再現を妨害するための人体にとって安全な非侵襲的な技術を示している。
1年前の論文でもありNatureではAbstractが日本語訳されているため、わざわざ載せる意味はないが、非常に興味深い論文だったので勉強のため読んだ。
不安障害に対する認知行動療法ではexposureによる恐怖条件付けの消去手続きを行う。臨床経験からは、exposureにより恐怖記憶を消去させるためにはexposureの際に恐怖がきちんと喚起される場面(CSとしての)にさらすことが必要だとされている。この論文は、このような臨床経験の理論的根拠になるものである。逆に再固定の際にCSを呈示しないような中途半端な消去手続きは恐怖記憶の単なる抑制であり、CSに再度曝されたときに恐怖の再現が起こることになり、治療失敗となると考えられる。
内容とは関係無いが、今日初めてこのブログの統計を見た。自分しかみていないという確信があったにもかかわらず、驚いたことに他の方からも見て頂いていた。
自分が興味を強く引かれた論文を忘れないように書いているだけのブログですが、よろしくお願いします。
Schiller D, Monfils MH, Raio CM, Johnson DC, Ledoux JE, Phelps EA.
Nature. 2010 Jan 7;463(7277):49-53
近年の恐怖に関する研究は再固定(Reconsolidation)にターゲットが当てられている。再固定の最中には保存された情報が想起の後に変化しやすくなる。この段階での薬物の操作はのちに記憶の想起を出来無くさせるため記憶が削除もしくは恒久的抑制されることを示唆している。しかし、このような薬物の人体に対する使用は有害なために問題がある。本論文ではヒトにおける恐怖記憶の再固定に焦点を当てた非侵襲的な方法を紹介する。われわれは古い恐怖記憶は“再固定枠”の中で呈示された非恐怖記憶によって更新されうるというエビデンスを提示する。結果的に、恐怖反応はもはや表出されず、その効果は一年後まで持続しており、他の記憶に影響することなく恐怖記憶のみに選択的な影響があった。これらの知見は、感情に関する記憶を上書きするための機会としての再固定の適応的な役割を示唆しており、恐怖の再現を妨害するための人体にとって安全な非侵襲的な技術を示している。
1年前の論文でもありNatureではAbstractが日本語訳されているため、わざわざ載せる意味はないが、非常に興味深い論文だったので勉強のため読んだ。
不安障害に対する認知行動療法ではexposureによる恐怖条件付けの消去手続きを行う。臨床経験からは、exposureにより恐怖記憶を消去させるためにはexposureの際に恐怖がきちんと喚起される場面(CSとしての)にさらすことが必要だとされている。この論文は、このような臨床経験の理論的根拠になるものである。逆に再固定の際にCSを呈示しないような中途半端な消去手続きは恐怖記憶の単なる抑制であり、CSに再度曝されたときに恐怖の再現が起こることになり、治療失敗となると考えられる。
内容とは関係無いが、今日初めてこのブログの統計を見た。自分しかみていないという確信があったにもかかわらず、驚いたことに他の方からも見て頂いていた。
自分が興味を強く引かれた論文を忘れないように書いているだけのブログですが、よろしくお願いします。
2011年3月7日月曜日
短期の抗うつ薬の摂取はうつ病ハイリスク者の内側前頭前野におけるネガティブな自己関連づけを減衰する
Short-term antidepressant administration reduces negative self-referential processing in the medial prefrontal cortex in subjects at risk for depression
M Di Simplicio1,2, R Norbury1,3 and C J Harmer1
Mol Psychiatry. 2011 Mar 1
うつ病はMPFCにおける情動処理の変化と関連している。抗うつ薬が健常者に対してこのようなMPFCの活動を変化させることは明らかになっているが、うつ病ではまだ検討されていない。本研究は29名のうつ病ハイリスク者を二重盲検でプラセボとSSRI投与群に分けて7日間の投薬前後で自己関連づけ課題を行い、その際の脳機能をfMRIで測定した。気分の変動がみられないにもかかわらずネガティブ刺激に対するMPFCの活動はSSRIによって有意に低下した。抗うつ薬によりネガティブな自己関連づけに関与する脳機能が、うつ状態の被験者でも変容することが明らかになった。
自分の論文も引用されていたので掲載。段々と引用数が増えて10件以上になったことは良かった。同じ研究を継続するわけではないので将来の展開がないのは良くないが。
M Di Simplicio1,2, R Norbury1,3 and C J Harmer1
Mol Psychiatry. 2011 Mar 1
うつ病はMPFCにおける情動処理の変化と関連している。抗うつ薬が健常者に対してこのようなMPFCの活動を変化させることは明らかになっているが、うつ病ではまだ検討されていない。本研究は29名のうつ病ハイリスク者を二重盲検でプラセボとSSRI投与群に分けて7日間の投薬前後で自己関連づけ課題を行い、その際の脳機能をfMRIで測定した。気分の変動がみられないにもかかわらずネガティブ刺激に対するMPFCの活動はSSRIによって有意に低下した。抗うつ薬によりネガティブな自己関連づけに関与する脳機能が、うつ状態の被験者でも変容することが明らかになった。
自分の論文も引用されていたので掲載。段々と引用数が増えて10件以上になったことは良かった。同じ研究を継続するわけではないので将来の展開がないのは良くないが。
2011年2月10日木曜日
パニック障害患者がfMRIセッションで何を体験しているか
(Don't) panic in the scanner! How panic patients with agoraphobia experience a functional magnetic resonance imaging session.
Lueken U, Muehlhan M, Wittchen HU, Kellermann T, Reinhardt I, Konrad C, Lang T, Wittmann A, Ströhle A, Gerlach AL, Ewert A, Kircher T
Eur Neuropsychopharmacol. 2011 Jan 24
不安障害の脳機能画像研究の重要性は高まっているが、MRI装置によるストレスの影響は知られていない。本研究では広場恐怖のあるパニック障害の患者がfMRI実験を行ったときの苦痛や不安を調査した。マルチセンターfMRI研究により、89人の患者と健常者を対象にした。被験者は馴化や手助けになった方略を含め苦痛を事後報告した。脱落率とMRIデータのクオリティは研究の実行実現性の指標として適用した。不安の指標は装置内の不安とデータの欠落を増加させる脆弱性を特定するために用いられた。3人の患者はセッションの最初で脱落した。脱落率には差がなかったが、データのクオリティは患者の方が多少悪かった。苦痛の程度は明らかに患者の方が大きく、閉所恐怖は患者の苦痛とデータの質の悪さと関連していた。広場恐怖を持つパニック障害の患者のfMRI研究の現実性は証明された。今後の脳機能画像研究では患者においては苦痛の程度とデータのクオリティの関係を検討する必要があるだろう。
Lueken U, Muehlhan M, Wittchen HU, Kellermann T, Reinhardt I, Konrad C, Lang T, Wittmann A, Ströhle A, Gerlach AL, Ewert A, Kircher T
Eur Neuropsychopharmacol. 2011 Jan 24
不安障害の脳機能画像研究の重要性は高まっているが、MRI装置によるストレスの影響は知られていない。本研究では広場恐怖のあるパニック障害の患者がfMRI実験を行ったときの苦痛や不安を調査した。マルチセンターfMRI研究により、89人の患者と健常者を対象にした。被験者は馴化や手助けになった方略を含め苦痛を事後報告した。脱落率とMRIデータのクオリティは研究の実行実現性の指標として適用した。不安の指標は装置内の不安とデータの欠落を増加させる脆弱性を特定するために用いられた。3人の患者はセッションの最初で脱落した。脱落率には差がなかったが、データのクオリティは患者の方が多少悪かった。苦痛の程度は明らかに患者の方が大きく、閉所恐怖は患者の苦痛とデータの質の悪さと関連していた。広場恐怖を持つパニック障害の患者のfMRI研究の現実性は証明された。今後の脳機能画像研究では患者においては苦痛の程度とデータのクオリティの関係を検討する必要があるだろう。
2011年1月26日水曜日
前帯状回および内側前頭前野における感情処理
Emotional processing in anterior cingulate and medial prefrontal cortex. Etkin, T Egner,A Trends in Cognitive Sciences, 2010
消去手続き1日目の背内側前頭前野と背側前帯状回の活動は、消去の過程よりも消去手続き1日目のCSに伴う恐怖の表出(恐怖の獲得ではなく)と関連していると考えられる。腹内側前頭前野と腹側前帯状回の活動は消去手続き開始1日目から2日目にかけて持続しており、これらの領域は扁桃体の機能抑制にともなう恐怖の制御に関連している。
情動処理におけるMPFCとACCの領域による機能の違いをこれまでのヒトを対象とした恐怖条件付けあ情動関連の脳機能画像研究から論じている。Bush et al 2000で言われているように背側が認知で腹側が感情というこれまでの見解と真逆の議論だが、これまでの情動関連の研究や気分障害を対象とした研究でもこのレビューと一致した結果が報告されているのを散見する。情動処理の議論に有用なレビューだと思う。
消去手続き1日目の背内側前頭前野と背側前帯状回の活動は、消去の過程よりも消去手続き1日目のCSに伴う恐怖の表出(恐怖の獲得ではなく)と関連していると考えられる。腹内側前頭前野と腹側前帯状回の活動は消去手続き開始1日目から2日目にかけて持続しており、これらの領域は扁桃体の機能抑制にともなう恐怖の制御に関連している。
情動処理におけるMPFCとACCの領域による機能の違いをこれまでのヒトを対象とした恐怖条件付けあ情動関連の脳機能画像研究から論じている。Bush et al 2000で言われているように背側が認知で腹側が感情というこれまでの見解と真逆の議論だが、これまでの情動関連の研究や気分障害を対象とした研究でもこのレビューと一致した結果が報告されているのを散見する。情動処理の議論に有用なレビューだと思う。
2011年1月13日木曜日
NIRSによるう診断についてのNatureに掲載された批評
Neuroscience: Thought experiment
Japanese hospitals are using near-infrared imaging to help diagnose psychiatric disorders. But critics are not sure the technique is ready for the clinic.
後輩が教えてくれた情報。この批評によると、NIRSを用いたうつ病と双極性障害の鑑別は時期尚早ではないかと述べられている。わざわざ著者がNIRSを体験したようで、自分のデータは健常者と言われたが、健常者よりもうつ病や双極性障害のパターンに近かったと述べている。この批評では他の研究者のコメントを引用してNIRSはまだ研究手法としてのみ有用であり、臨床で鑑別診断を行うことはまだ難しいのではないかということや、もともと日本で先進医療として適用になったときの評価委員会でも研究データのサンプルが少ないことなどが批判されたが、推進派の声が大きく採用されたと述べられている。
自分もNIRSを使っていたが、NIRSはかなりデータの信頼性や解釈の仕方が難しいと思うし、こういったNeuroimagingの手法を臨床応用するという考え方自体あまり将来性がないと感じている。ただ、この批評自体はデータを挙げて反論しているわけでもないので、説得力はそれほどないように思う。
Japanese hospitals are using near-infrared imaging to help diagnose psychiatric disorders. But critics are not sure the technique is ready for the clinic.
後輩が教えてくれた情報。この批評によると、NIRSを用いたうつ病と双極性障害の鑑別は時期尚早ではないかと述べられている。わざわざ著者がNIRSを体験したようで、自分のデータは健常者と言われたが、健常者よりもうつ病や双極性障害のパターンに近かったと述べている。この批評では他の研究者のコメントを引用してNIRSはまだ研究手法としてのみ有用であり、臨床で鑑別診断を行うことはまだ難しいのではないかということや、もともと日本で先進医療として適用になったときの評価委員会でも研究データのサンプルが少ないことなどが批判されたが、推進派の声が大きく採用されたと述べられている。
自分もNIRSを使っていたが、NIRSはかなりデータの信頼性や解釈の仕方が難しいと思うし、こういったNeuroimagingの手法を臨床応用するという考え方自体あまり将来性がないと感じている。ただ、この批評自体はデータを挙げて反論しているわけでもないので、説得力はそれほどないように思う。
2010年12月13日月曜日
うつ病における認知的再評価の、急性および持続性の効果
Acute and Sustained Effects of Cognitive Emotion Regulation in Major Depression
Susanne Erk,1 Alexandra Mikschl,2 Sabine Stier,2 Angela Ciaramidaro,3 Volker Gapp,2 Bernhard Weber,2 and Henrik Walter1,4
The Journal of Neuroscience, November 24, 2010, 30(47):15726-15734
うつ病患者と健常者に対して、視覚的感情刺激に対する認知的再評価を行う課題を実施した。15分後に視覚的感情刺激を受動的に観察するだけの課題を実施した。認知的再評価を行っているときには、患者もネガティブ感情を扁桃体の活動と伴に低下させた。一方で、低下の程度は重症度と関連していた。さらに、観察課題では健常者では持続的に扁桃体の活動の低下を維持できていたが、うつ病患者では維持できなかった。Connectivity解析ではうつ病患者では前頭葉と扁桃体の連結が低下しており、認知的再評価の際の前頭葉の活動低下が観察課題における扁桃体の活動低下の維持と関連していた。
Susanne Erk,1 Alexandra Mikschl,2 Sabine Stier,2 Angela Ciaramidaro,3 Volker Gapp,2 Bernhard Weber,2 and Henrik Walter1,4
The Journal of Neuroscience, November 24, 2010, 30(47):15726-15734
うつ病患者と健常者に対して、視覚的感情刺激に対する認知的再評価を行う課題を実施した。15分後に視覚的感情刺激を受動的に観察するだけの課題を実施した。認知的再評価を行っているときには、患者もネガティブ感情を扁桃体の活動と伴に低下させた。一方で、低下の程度は重症度と関連していた。さらに、観察課題では健常者では持続的に扁桃体の活動の低下を維持できていたが、うつ病患者では維持できなかった。Connectivity解析ではうつ病患者では前頭葉と扁桃体の連結が低下しており、認知的再評価の際の前頭葉の活動低下が観察課題における扁桃体の活動低下の維持と関連していた。
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