2014年4月11日金曜日

未治療のうつ病におけるネガティブ情動の再評価の最中の脳活動と主観的体験の調整の成功のエビデンス

Evidence of successful modulation of brain activation and subjective experience during reappraisal of negative emotion in unmedicated depression. 2013 Psychiatry Research: Neuroimaging

未治療のうつ病患者12名と対照健常者24名においてネガティブ感情の認知的制御を検証するためにfMRIを用いた。研究参加者はネガティブ画像や中性画像の自己関連づけを増加(real condition)させたり低減(photo condition)させたりしている際にfMRIを行った。受動的な観察(look condition)はベースラインとして用いた。再評価はうつ病に強く影響されなかった。両群共に写真の記憶自体は良く保持されていた。グループ間では、real conditionにおいてdLPFC、前帯状回、頭頂葉、尾状核、扁桃体の活動増加が見られた。うつ病の重症度はネガティヴに対する再評価においてDLPFC、扁桃体、小脳の活動と負の相関が見られた。群間差の欠如はうつ病患者は明確な教示であればネガティブ画像による脳活動と主観的体験を調整できることを示唆する。しかし、うつ病の重症度と再評価における脳活動の負の関係性はより重症のうつ病患者と多くのサンプルであれば群間差を見いだせるであろうことを示している。

思ったより面白くなかった。

2014年4月4日金曜日

再評価とマインドフルネス:主観的効果と認知的コストの比較

Reappraisal and mindfulness: A comparison of subjective effects and cognitive costs 2013 Behaviour research and therapy 51 899-904

本研究はマインドフルネスと再評価の悲しみ気分に対する効果を比較し、さらにマインドフルネス特性と再評価の習慣的使用が悲しみ気分に対するこれらの方略の効果を媒介するかを検討した。また、この研究ではこれらの方略の認知資源の比較を行った。129名の被験者は自伝的記憶の想起による悲しみ気分誘導前にマインドフルネスか再評価か何も行わないかに無作為に割り付けられた。結果からマインドフルネスと再評価は悲しみ気分に対して同程度の効果が見られた。再評価はマインドフルネスと比較して、事後のストループテストに置いて干渉が増加しており、認知的資源の剥奪が見られた。マインドフルネス特性は、再評価の習慣的使用と異なり、どの群に置いても悲しみの低減と関連していた。この研究から,マインドフルネスと再評価は同程度に有効だが認知的コストが異なることが示唆された。

すっかり忘れていた。
この研究ではストループテストだが、もう少し認知的コストの個別要素について調べても面白いかもしれない。
マインドフルネスは精神的に疲れないということだな。ただ、やった後はともかくとしてやりやすさとしては再評価とマインドフルネスのどちらがやりやすいのだろう

2014年1月11日土曜日

ベクションは自伝的エピソード記憶の感情価を調整する

Vection modulates emotional valence of autobiographical episodic memories 2012 Cognition

我々は、上下に移動する刺激によって喚起された自己移動感覚(ベクション)が自伝的エピソード記憶の感情価を変容するかどうかを検討した。我々は被験者が上に移動するベクションを知覚したときによりポジティブなエピソードを想起することを見いだした。しかし、ベクション効果が小さい、もしくは生じないような小さい刺激もしくは固定して見える刺激の場合は感情価に影響を与えないことが見いだされた。我々はベクションによる感情価の調整は気分一致効果によって生じていると推測した。この仮説を検証するために、ベクションの方向が被験者の気分に影響するかを検討した。結果として、上へのベクションは気分にポジティブな影響を与えた。この結果は自己移動感覚の方向と自伝的エピソード記憶の感情価の間に緊密な関係性があることを示しており、ベクションに伴う気分の変化が想起される記憶の感情価の調整の背景にあることを示している。

面白い。ベクション効果を生起させる刺激を上手く作れれば、色々と応用できそうだ。新しい気分誘導方法としてとか、外的刺激によって記憶以外の情動価が変容するかとか。

2013年12月26日木曜日

電気痙攣療法は人におけるエピソード記憶の再固定化を阻害する

An electroconvulsive therapy procedure impairs reconsolidation of episodic memories in humans. 2013 Nature neuroscience

動物における記憶の再固定化の証拠が蓄積しているにもかかわらず、人においては特にエピソード記憶に関する証拠は限定的だ。被験者内操作を用いて、我々はうつ病患者における記憶の最活性化のあとの電気痙攣療法の適用が時間依存的な情動的エピソードの最活性化を阻害し、最活性化していない記憶では阻害されない事を見いだした。我々の結果は人の情動的エピソード記憶の再固定化の証拠を提供する


ネットでも話題になっていた論文が元同僚のおかげで手に入った。興味深いのでもう少し内容に踏み込んで書き残しておこう

動物実験では盛んに研究されている記憶の再固定化だが、記憶の再固定化現象に3つの原則があると論文にはある
原則1:固定化された記憶は、reminder cueによって再活性化される事
原則2:固定化された記憶を変容させる手続きは再活性化の後に行われるのであり、前ではあり得ない
原則3:再固定化は時間依存的プロセスであり、それゆえに再固定化の発生を容認する時間枠に影響される-通常時間枠は再活性の24時間後であり即時ではない
しかし、この原則は動物研究であれば容易に守れるが人を対象とした研究では原則2と原則3は守られておらず、そのために再固定化という解釈ではなく、二次的な記憶符号化や記憶起源の混乱等の他の解釈を可能にする。
この問題を回避するためにECTを用いて記憶の再固定化を操作しようとするのがこの研究の主目的である。もともとECTは動物などでも健忘症を生じさせる事が分かっている。そのメカニズムはよくわかっていないが、タンパク合成阻害薬と同様の作用があるなら記憶の再活性化の後のECTは時間依存的な記憶障害(要は即時の記憶障害ではなく24時間後に記憶障害をもたらすということか)をもたらすと予測できる。
そこで、ECTを行う事が決まっていたうつ病患者を対象にECTがエピソード記憶の阻害をもたらすかを検討する事にした。
被験者:42名のうつ病患者は、A:記憶の再活性化の直後にECTを受け、記憶のテストを24時間後に行う群;B:記憶の再活性化の直後にECTを受け、記憶のテストをECT直後に行う群;C:記憶の再活性化の後にECTを行わず、記憶のテストを24時間後に行う群の3つに振り分けられた。
学習セッション:被験者は感情的に不快な画像スライドの系列2つを目視した。一つの系列はネガティブなCahill story(内容はよくわからないが、子どもが事故にあって何とからしい)を音声で流しながら目視した。もう一つの系列は情動価や覚醒度、文の長さなどをCahill storyと同等に調整したネガティブなnew storyを音声で流しながら目視した。
再活性化セッション:再固定化を促進するための再活性化手続きを学習セッションの1週間後に行った。再活性化は学習セッションの2つのスライド系列のうち一つにした。被験者は学習したスライド系列の最初の1スライドだけを見た。しかし、そのスライドの部分はチェックボード模様でマスクされていた。被験者は隠されている部分について3つの質問に自由回答した。自由回答できない場合は強制2択によって回答させた。再活性化における回答は点数化されたが、群間に差はなかった
ECT:A、B群ともに再活性化の後に通常のECTをおこなった
DSST:WAISの符号化のように記号に対応した数字を記入する課題を学習セッションの前に行って、群間の認知機能の差を検討した。群間差がありそうなものだが無かった。
複数選択記憶課題:記憶の再固定化のテスト。スライド系列1枚に対して3−5の選択問題を被験者に課した。最初の1枚目は再活性化で用いているので解析から除外している。質問の内容の例は、問“2枚目のスライドに誰がいたか” a母親 b息子 c母親と息子 d母親と息子と他の誰か、と言った感じ。1枚ずつ行うため課題時間は1時間が必要だった。これはひどい。A,C群は再活性化の24時間後に実施し、 BはECTの直後に行った。質問に対する正答数を記憶のスコアとした。
結果:再活性化を行ったスライド系列の複数選択記憶課題における記憶スコアはA群ではECTにより再活性化なしより低下した。B群では再活性化の有無の差はなく、C群では再活性化有りのスライドの記憶スコアが高かった。
ちなみに、A群における再活性化による再固定化の阻害は、情動的なスライドの部分だけでなく非情動的なスライドの部分でも生じた。

細かい部分はともかく概要は分かった。面白い。再固定化の原則に照らせばScillerの論文に穴が有る事も分かった(どれくらい一般化された原則なのかはわからん)。ECT以外の方法で何とか結果を再現できないか。再現できたらすごいのだが。



2013年11月30日土曜日

どのように忘れるかはどのように覚えているかに依存している

How we forget may depend on how we remember 2013 Trends in Cognitive Sciences

近年の研究の発展は海馬に依存した記憶は相対的に妨害に対する抵抗性があり、減衰には敏感である事を明らかにしている。海馬は記憶の早期に不可欠であり、記憶の形式は時空間的文脈における学習した事項の復帰に関わっている。その他の記憶の形式は親密性として知られているが、文脈的な記憶の復帰には関わらず、学習された事項の熟知感に関わる。親密性は外海馬構造に依存しており、妨害に対する抵抗を促進するような機能は持たない。これらの事は忘却の原因が記憶の性質に依存するという新しい仮説を導く。つまり、想起に依存した記憶は妨害よりも減衰に弱いが、親密性に依存した記憶はその逆である。このレビューはこの仮説を支持する証拠を示す。

恐怖記憶との関連で考えると興味深い。恐怖記憶は海馬依存の記憶なので妨害に対しては強いが、減衰しやすいと考えると消去によって変質されやすい記憶なのだろう。恐怖の文脈記憶の忘却を促すには減衰を促すだけでなく、記憶の構造的変化をも促せれば良いのだが。たまには基礎的な情報を入れて新しいことを考えられるようにしたい。

2013年11月25日月曜日

認知的感情制御の神経ネットワーク:ALEメタ分析とMACM分析

Neural network of cognitive emotion regulation — An ALE meta-analysis and MACM analysis 2013 Neuroimage

情動の認知的制御はウェルビーイングや精神病理学にインパクトを与える社会的機能と相互作用する基本的な根本要素である。この過程の神経基盤は近年積極的に研究されているが、一般的な共通理解は得られていない。我々はALEを用いて認知的情動制御の論文(23論文/被験者479人)を量的に要約した。加えて、我々は量的な機能的推論とメタ分析的結合性モデリング(MACM)を用いて特的の領域とその領域との相互作用に寄与する特的の機能的結合性を検討したそのために、我々は情動反応の制御に関わる中核的な脳ネットワークのモデルを開発した。これに基づいて、上側頭回、角回、補足運動野が前頭領域によって駆動されて情動制御の遂行に関わることを明らかにした。背外側前頭前野は注意のような認知的過程の制御と関連しているが、腹外側前頭前野は情動制御そのものには必ずしも必要でなかったがシグナルの顕著性に関わるので制御に必要であることが明らかになった。我々は解剖学的にも機能的にも行動に影響し皮質下組織に影響する独立した位置にある中前帯状回のクラスターが情動の生起に関与することを見いだした。従って、この領域は情動制御において中核的で統合的な役割を持つと考えられる。複数の研究にまたがる領域の活動に注目することで、このモデルは精神疾患における情動制御の障害のアセスメントにおける重要な情報を提供するだろう。

MACMという機能的結合性までメタ分析できるツールがあるとは知らなかった。論文見る限りでは、他の論文で指摘されているその領域の機能から神経ネットワークの方向性を推定しているようだが・・。

2013年11月2日土曜日

チョコレートに対する注意バイアスはチョコレートの消費を増加させるー注意バイアスの修正研究



Attention bias for chocolate increases chocolate consumption - An attention bias modification study 2013 Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry

本研究はチョコレートの摂取と隠されたチョコレートを探す動機付けにより飢餓感を増加させる食べ物の手がかりに対する注意バイアスを実験的に操作して検討した。後続するチョコレートの接収に対する注意の効果を検討するため、新規注意バイアス修正課題(アンチサッケード課題)の最中にチョコレートに対する注意を、チョコレートに注目するか食べ物でない刺激に注目するか被験者に教示することによって修正した。チョコレートの消費は、飢餓感の変化と隠されたチョコレートの探索時間によって評価した。眼球運動の記録は媒介効果を検討するために実験的注意修正課題の最中の精度をモニターするために用いた。回帰分析は注意修正効果とチョコレート摂取や飢餓感、隠されたチョコレートの探索動機に対する修正の正確性の効果を検討するために行われた。結果からは、+1SD以上の高い正確性を示した被験者はチョコレートに対する注意を向けたときに、チョコレートをより摂取し、食べ物でない刺激に注意を向けたときは摂取は少なかった。対照的に正確性が-1SD以上少ない被験者は逆の結果になった。飢餓感の修正や隠されたチョコレートの探索時間の操作は影響が見られなかった。今回はチョコレートを刺激に用いたが、他の食物でも同様の効果が見られるかは一般化できない。これらの結果は食物に対する注意と食物の摂取のつながりに更なる証拠を与える物である。

アンチサッケード課題とは、刺激が提示された方向とは逆の方向を注視する課題である。ちょっと面白いので、この研究のことは覚えておこう。
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