2013年10月13日日曜日

辺縁系と傍辺縁系の灰白質密度は、PTSD患者のトラウマの負荷とEMDRの効果と関連している


Gray matter density in limbic and paralimbic cortices is associated with trauma load and EMDR outcome in PTSD patients 2010 Psychiatric Research

PTSD患者において灰白質の構造的変化は一貫したエビデンスがある。本研究の目的はトラウマの負荷の程度と関連したPTSDにおける灰白質密度を検討することと、EMDR治療反応群と非反応群のGM密度をひょうかすることであった。21名のトラウマに曝露されたPTSD発祥患者と22名の健常者にMRIを実施してVBMにより比較した。さらに患者のうち、10名の治療反応群と5名の非反応群の比較を行った。回帰分析をGMとトラウマの程度を調べるTAQの得点の間で43名のデータで行った。結果からは、GM密度の低下が患者群において後部帯状回と後部海馬傍回で見られた。さらに非反応群ではGM密度が後部帯状回、前部島、前部海馬傍回、扁桃体で見られた。回帰分析は、トラウマの負荷と関連するGMの低下が、後部帯状回、前部島、前部海馬傍回で見られた。結論は、GM密度の辺縁系と傍辺縁系の低下はPTSD、トラウマの負荷、EMDR治療の結果と関連しており、これはPTSDの記憶と解離によってPTSDが特徴付けられることを示唆している。


最近NHKでPTSD治療の番組でEMDRを扱っていたので、EMDRの神経科学研究を調べてみた。しかし、あまりクオリティの高い論文はなく、今回調べた範囲ではまともな研究は、この論文かPLOS oneにあった論文ぐらいしかない。EMDRが精神医学においてどういう地位におかれているかを端的に示していると思う。EMDRを超えるような効果と作用機序が明確な治療法の開発ができればと思うが・・・。


2013年10月12日土曜日

不安とうつに対する心理療法の神経相関:メタ分析


Neural Correlates of Psychotherapy in Anxiety and Depression: A Meta-Analysis 2013 PLOS one

いくつかの研究では、うつや不安に対する心理療法の後の情動制御と関連した脳ネットワークの変化を同定するために脳画像を用いている。本研究では、脳画像データに対してメタ分析的手法を用いて心理療法の一貫した結果と治療モデルを検証した。メタ分析はALEを用いて研究間でオーバラップしている脳活動を評価した。分析には200の部位と193人の患者を含む16の研究を投入した。分割したメタ分析を1)うつ、PTSD、パニック障害の安静時脳賦活研究(6の研究、患者70人)、2)うつ、PTSD、パニック障害の課題時脳賦活研究(5の研究、患者65人)、3)1)と2)の混合、4)恐怖症における曝露と関連した活動(5の研究、患者57人)に対して行った。うつと不安に対する研究では背側内側前頭前野と後部帯状回・楔前部の部分的に一貫した変化が見られた。側頭葉の一部にも変化が見られた。前頭前野における変化のクラスターは心理療法による情動制御の変化のモデルによって推測される、制御処理の増加と関連していると考えられる。しかし、全ての領域が情動制御に関わるのではなく、皮質中心構造の変化は自己関連づけ処理の変化も反映しているだろう。恐怖症の変化は、一貫して恐怖刺激による活性化の減少が見られた。


一貫した変化が見られたクラスターがとても少ないので、まだまだ心理療法による脳活動の変化について一貫した結論を見いだすことは難しい。まともな結果が出ていればもう少し良いジャーナルに掲載されていただろうが、研究の数自体が少ないので結果を出すのも苦労したと思う。しかし、情動制御に関連した脳部位や自己関連づけと関連した脳部位の変化が見られるというのは、自分の研究の結果と照らし合わせても一致しているので良かった。


2013年9月14日土曜日

高不安群における脅威と関連した注意の切断の社会的制御


The social regulation of threat-related attentional disengagement in highly anxious individuals 2013 frontiers in Human Neuroscience

ソーシャルサポートは高不安群のストレス反応を正常化すると思われるが、社会的文脈における不安反応の研究は少ない。我々はソーシャルサポートと脅威に対する神経反応のつながりにおける状態不安と特性不安の役割を検討した。我々は、3条件(単独、他人の手を握る、友人の手を握る)の元で電気ショックの脅威にさらされた被験者にfMRIパラダイムを適用した。我々は特性不安と脅威条件で視床下部、被殻、中心前回、楔前部における交互作用を見いだした。さらに特性不安高群は単独条件でこれらの領域の賦活が低下していた。この活動パターンは高強度の脅威の知覚と関連した注意の解放を示唆している。これらの知見は先行研究で示唆されている、高不安群は中程度までの不安に強く反応し、逆説的に高強度の不安に対する反応が弱いという知見を指示しており、不安と脅威に対する不安の間に逆U字の関係性があることを示唆している。我々は、高不安群は単独条件で高強度の脅威にさらされると注意の解放が生じており、他者の手によってその知覚が感割られると推測した。この注意の解放は、高不安群が高強度の脅威にさらされていると近くされいるときに見られ、それは社会的接近によって軽減すると思われる。これらの結果は不安群における情動反応の制御における社会的サポートの役割を示唆している。

脅威状況における生理的反応が測定できていないので、脳活動と体験としての不安の関連は曖昧なところもある。特性不安と脅威の程度の交互作用が脳活動にどのように現れるかを説明した図は分かりやすかった。

2013年9月5日木曜日

感情の認知的再評価:人を対象とした脳画像研究のメタ分析


Cognitive Reappraisal of Emotion: A Meta-Analysis of Human Neuroimaging Studies
Jason 2013 Cerebral Cortex

近年、情動的インパクトを変容するために刺激に対する評価の仕方を変える、認知的再評価の脳画像研究が爆発的に増えている。現存のモデルは、認知的再評価が扁桃体の情動的反応を調整する前頭前野や頭頂領域に関与することで一致しているが、どのようなプロセスで扁桃体を調整するかは競合した意見がある。一つの意見は、腹側内側前頭前野がコントロールしており、消去に関与するため扁桃体が抑制されるというものである。別の意見は、意味表象に関わる外側側頭皮質が間接的に扁桃体を抑制するというものである。さらに、先行研究が扁桃体の役割を重要視しているにもかかわらず、認知的再評価においては未知の情動領域に関わるというものもある。これらの疑問を解決するために、ネガティブ情動の低減を目的とした認知的再評価の論文48個をメタ分析した。認知的再評価は一貫して、1)認知的コントロール領域と外側側頭皮質を活性化させたが、腹側内側前頭前野は活性化が見られず、2)両側の扁桃体を調整していた。この結果は、認知的再評価は情動刺激に対する意味表象の変化を通して認知的コントロールをしており、その結果扁桃体の情動反応が調整されていることを示唆している。

ちょっとした間に重要な論文がいくつも出ていた。NeuroElfという解析パッケージを使っていたのが興味深い。このメタ分析で認知的再評価は腹側内側前頭前野の賦活が一貫していないという結果がでたことは非常に大きい。認知的再評価が操作としてどれくらい上手くいったのか、刺激のモダリティ、認知的再評価の方略によって変わりそうな気もする。

2013年8月28日水曜日

OCDの治療プロセスにおける脳活動の非連続性:反復的なfMRIと自己報告の相反した結果


Discontinuous Patterns of Brain Activation in the Psychotherapy Process of Obsessive-Compulsive Disorder: Converging Results from Repeated fMRI and Daily Self-Reports  2013 Plos one

本研究では心理療法の過程における神経活動のパターンを検討した。インターネットベースのシステムで治療中の自己報告を収集した。dynamic complexityを時系列データの結果に適用した。変化の過程はdynamic complexityの変動によって示された。fMRIの反復測定は治療中も行われた。参加者は9名のOCD患者と健常者だった。症状を喚起するための課題は患者の個人的な対象から選んだ画像の提示であった。疾患と関連した神経活動は、一般的な不快画像と中性画像の時と比較した。治療と関連した脳活動(帯状回、DLPFC、島、頭頂葉など)において変化が現れる段階で見られた。この結果は、非固定的な変化が、自己組織化と治療的変化の複雑なモデルを支持する治療プロセスにおいて重要な役割を果たしていることを示している。

なぜこういう研究デザインになったのか何をやっているかよくわからないが、チャレンジングではある。
ぼちぼちやっていこう

2012年12月27日木曜日

"Mind the Trap":マインドフルネス訓練は認知的硬直性を低減する

"Mind the Trap": Maindfulness Practice Reduces Cognitive Rigidity 2012 PLoS one

2つの実験によってマインドフルネスと認知的硬直性の関連を、Einstellung water jar taskを用いて検討した。被験者は3つのつぼを用いて特定の量の水を得るように求められた。初期の問題は同一複雑な構えによって解くことができるが、後期の問題(クリティカルあるいは罠の問題)はさらにシンプルな構えを加えることによって解くことができる。硬直性のスコアは複雑な構えの耐久力を通して計算された。実験1ではマインドフルネスを受けた被験者はまだ瞑想訓練を受けていない被験者よりも硬直性のスコアが低減した。実験2ではWaiting-listとのRCTを行い、そこでは同様の結果が得られた、我々はマインドフルネス瞑想は体験によって盲目になる傾向を通して形成された認知的効力性を低減すると結論付けた。この結果は過去の体験によって新規で適応的な方法を見落としてしまう傾向を減らすというマインドフルネスの利得という観点から議論できる。

柔軟性は次の実験でやろうと思っている。が、なかなか課題に落とし込むのは難しい。fMRIを前提にするとなおさら。しかし、マインドフルネスは何でも効果があるように思うが、その背景にあるメカニズムはシンプルな気がする。回りくどい過程を飛ばして情動やそれを制御する認知によりダイレクトに影響しているのだろう。

2012年12月18日火曜日

不安障害とうつ病における脳機能と脳構造に対する心理療法と薬物療法の効果の違い

Difference between effects of psychological versus pharmacological treatments on functional and morphological brain alterations in anxiety disorders and major depressive disorder: A systematic review 2012 Neuroscience and Biobehavioral Reviews
最も一般的な精神障害である不安障害と気分障害は内側前頭前野や海馬、扁桃体といった恐怖回路を含む機能的、構造的な脳の変化と関連している。これらの患者は扁桃体の過敏性と前頭葉の機能減少を示す。しかし、これらの脳の異常が治療によって低減するのかはいまだに明らかでない。このレビューは、これらの疾患における機能的、構造的な脳の指標に対する心理療法と薬物療法の効果を比較する。63の研究において、30が心理療法の効果を検討しており、33が薬物療法の効果を検討している。方法論的な違いはあるが、結果からは恐怖回路の機能的な正常化が示唆された。薬物療法は辺縁系の過活動を特に低減させるボトムアップ効果があり、心理療法は前頭皮質の特に前帯状回の活動を高めるトップダウン効果が示された。加えて、薬物療法のみ構造的な変化が伴っていた。これらの知見は、これらの治療法が異なる経路で脳の異常を正常化することを示唆している。

ざっくりしたレビューっだが、そのうちメタ分析が行われてデータから物が言えるようになることを期待している。自分でやっても良いが。
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