2012年10月18日木曜日

ヒトの恐怖条件付けにおける随伴性学習は腹側線条体が関与する

Contingency learning in human fear conditioning involves the ventral striatum 2009 Human Brain Mapping

恐怖刺激とその予期手がかりの間の随伴性の検出と学習をする能力は環境に対処するための重要な機能である。随伴性の知覚は条件刺激と無条件刺激の関連性を言語化する能力と関連する。条件反応としての恐怖の随伴性の知覚の影響は議論が白熱しているが、人間の恐怖学習において随伴性の知覚の過程の形式の背後にある神経相関に対する注意はわずかにしか払われていない。近年の動物研究は腹側線条体がコの過程に関与していること示しているが、ヒトの研究において腹側線条体はポジティブ感情との関連を示すのものがほとんどである。この問題を検証するために、我々は4つの古典的恐怖条件付けの研究を随伴性知覚の3つのレベル(随伴性の知覚が無い被験者、随伴性の知覚がある被験者、教示によって随伴性の知覚を事前に得た被験者)で腹側線条体を再解析した(N=117)。結果から腹側線条体は随伴性の知覚があった被験者でより活動していたことが示された。興味深いことに教示で随伴性の知覚を得た被験者ではコの活動はみられなかった。我々は腹側線条体が随伴性の知覚を条件付けづけの時に得たか条件付けの前に得たかかということにかかわらないと予想する。腹側線条体は随伴性の知覚無しから随伴性の知覚ありへ移行する時に重要であるように考えられる。

若干古い論文だがなかなか面白い。随伴性の知覚はうつ病でも言われることだが、結果が報酬か罰かは関係なく腹側線条体は重要なようだ。

2012年10月16日火曜日

曝露療法は恐怖プロセスの神経活動の長期的な再体制化を引き起こす

Exposure therapy triggers lasting reorganization of neural fear processing 2012 PNAS
1セッションの曝露療法は、脅威となる事象に対する強固で不自由な恐怖を消去できる。我々はこの驚くべき成果の神経メカニズムを2時間の治療の結果変化した脳活動を測定することで検討した。治療の前に、脅威画像は扁桃体、島、前帯状回の活動を引き起こした。治療は、これらの恐怖感受性ネットワークの反応を減衰し、随伴して前頭前野領域の活動を高めた。6カ月後、恐怖ネットワークの活動の減衰は持続したが前頭前野の活動はみられなかった。加えて、視覚野の活動の程度の個人差は6カ月後の治療結果を予測した。この時の視覚野の活動は脅威画像に対する反応の減衰と相関していた。治療の成功は、当初の恐怖刺激に対する神経活動の再体制化の持続を伴っている。この効果は動物モデルにおいて同定されている恐怖-消去メカニズムとリンクしており、不安障害の治療と予防の新たな展開を導くものである。

非常にチャレンジングな研究である。脳は環境と生体の相互作用のインターフェースとなる基盤である。恐怖や消去のメカニズムは、動物モデルや人体における神経メカニズムの解明によって、将来治療法の開発が大きく進むと考える。つまり、恐怖の消去は脳の機能を変えることであり、その脳の機能を変えるための非侵襲的治療として従来の曝露療法以上の技術がでてくるだろう。技術としてNeurofeedbackが使えるかもしれないし、Schiller et al 2010のような恐怖記憶の再固定化を妨害する方法が臨床応用できるようになるかもしれない。本当にそうなれば良いのだけれど。

2012年9月24日月曜日

再固定化の妨害によるヒトの扁桃体における恐怖記憶の痕跡の削除

Disruption of reconsolidation erases a fear memory trace in the human amygdala. 2012 Science

記憶は側きされると不安定になる。ヒトとげっ歯類は同様に、再活性化された恐怖記憶は消去訓練に伴う再固定化の妨害によって減少する。fMRIを用いて我々は条件付けされた恐怖記憶が固定された後に、恐怖表出を予測する扁桃体外側基底に再活性化と再固定化が残した恐怖痕跡と、それが脳の恐怖回路における活動と連合していることを見出した。対照的に再活性化に後続した再固定化の妨害によって恐怖が抑制され、記憶痕跡の消失と恐怖回路のコネクションの減少がみられた。よって、げっ歯類によって示されてきたように、恐怖記憶の良く性が再固定化の行動的な妨害の結果であり、ヒトの扁桃体に依存したものであることは、進化に伴って保持されてきた記憶更新メカニズムであることを支持している。

おととしのSchiller et al 2010をfMRIによって追試した論文。やはりこういう先端かつCBTの根幹となるメカニズムに迫る研究には大きな魅力を感じる。

2012年8月28日火曜日

恐怖学習におけるセロトニンの影響

The influence of serotonin on fear learning 2012 PLoS once

嫌悪刺激とそれを予測する手がかりの間の連合学習は古典的恐怖条件付けの基盤であり、予測と結果の間のミスマッチによって駆動する。セロトニンが嫌悪的手がかりと結果の連合を調整するかを検討するために、我々はfMRIと健常者において脳のセロトニンレベルを低下させるトリプトファン欠乏食を用いた。古典的恐怖条件付けパラダイムにおいて、5HT欠乏の被験者は欠乏していないコントロールと比較して嫌悪事象の東大に対する自律反応が減少した。これらの結果は恐怖の神経回路の強固な構造である扁桃体と眼窩前頭皮質の嫌悪学習の信号減少と並行していた。恐怖学習においてセロトニンがドーパミンに対する反対の動機付けシステムであるという現在の主張と一致して、我々のデータは嫌悪事象に対する学習信号の表象にセロトニンが役割を果たす最初の実証的証拠を提示した。

セロトニン欠乏が恐怖条件付けに対する感受性を低下させるとは知らなかった。強化学習モデルに基づくと、セロトニンは嫌悪事象の予測と結果の誤差を調整する変数であり、ドーパミンのような報酬事象の予測と結果の誤差を調整する変数とは対照的らしい。つまり、セロトニン欠乏は嫌悪事象の予測と結果の誤差を調整することを困難にさせるため、恐怖条件付けにおける連合学習を低下させるようだ。

2012年8月20日月曜日

マインドフルネストレーニングは老年期の孤独と炎症誘発性遺伝子の発現を低減する:小規模な無作為統制試験

Mindfulness-Based stress reduction training reduces loneliness and pro-inflammatory gene expression in older adults: A small randomized controlled trial. 2012 Brain, Behavior, and Immunity

孤独な老人は炎症誘発性遺伝子の発現が増加しており、病気の罹患と寿命のリスクが増大している。以前からの行動的介入は孤独とその健康に対するリスクを低減しようと試みている。本研究では、8週間のマインドフルネスプログラムがウェイティングリストと比較して、老人の孤独と炎症誘発性遺伝子の発現を低減するかを検討した。予測と一致して、マインドフルネスプログラムは孤独を低減した。さらに、ベースラインにおいて孤独と炎症誘発性のNF-kB関連遺伝子の発現上昇が関連し、マインドフルネスはこの遺伝子発現を減少させた。そして、マインドフルネスはCRPを減少させる傾向がみらられた。本研究はマインドフルネスが老年期の孤独と炎症誘発性遺伝子の発現を低減する新しい治療であることを初めて示した。

心理的介入が健康を改善するメカニズムの中に炎症誘発性遺伝子の発現現象が媒介変数になっている可能性を示している。孤独という構成概念が炎症誘発性遺伝子の発現と関連していることを本当は前提としてはっきりさせなければならないのだろうが・・・。

2012年8月6日月曜日

うつ病における恐怖表情ではなく悲しみ表情に対する扁桃体の反応増加:気分状態と薬物療法との関連

Increased Amygdala Responses to Sad But Not Fearful Faces in Major Depression: Relation to Mood State and Pharmacological Treatment 2012 American Journal of Psychiatry

ネガティブ情動に対する扁桃体の反応増加は、うつ症状の背景にあるネガティブ情動処理のバイオマーカーでうつ病の再発の脆弱性であり薬物療法によって正常化する。本研究の目的はうつ病における顔表情に対する異常な扁桃体の反応が情動特異的であるか、また薬物療法によって変化するか、あるいは薬物療法を終えた寛解うつ病において特性として残存するかを検討することである。62人の治療なしのうつ病患者(38人が現在のうつ病、24名が寛解)と54人の健常対象者は間接的顔表情処理課題を行い、fMRI測定を行った。32人の現在のうつ病患者はシタロプラムで8週間治療を受けた。治療のアドヒアランスは血清中のシタロプラム濃度で管理した。現在のうつ病患者は健常者や寛解患者に比べて悲しみ表情に対する扁桃体の反応増加がみられた。シタロプラムは悲しみ表情に対する扁桃体の反応を根絶したが、恐怖表情に対する反応は変化しなかった。悲しみ表情に対する異常な扁桃体の反応はうつ状態に特異的であり、うつ病エピソード中のネガティブ情動バイアスの潜在的なバイオマーカーであると考えられる。

event-related designではなくblock designの顔表情課題で扁桃体の賦活を見た研究は珍しい。blockで良いなら楽な話だが・・・。

2012年8月3日金曜日

不安における適応的な脅威バイアス:扁桃体-背内側前頭前野の結合性と嫌悪の増強

The adaptive threat bias in anxiety: Amygdala-dorsomedial prefrontal cortex coupling and aversive amplification 2012 Neuroimage

機能的観点では、不安は嫌悪刺激に対するヴィジランスを増大し、危険を探知して回避する能力を向上させる。たとえば、我々が最近見出したように健常者において不安は嫌悪刺激の検出と防衛反応を誘発する。これは不安の適応的な機能であることはほぼ間違いないが、この情動特定的な効果の神経回路は明らかになっていない。本研究では、背内側前頭前野と帯状回はげっ歯類の前辺縁系と相同しており、これらの領域の働きが不安による適応的な脅威バイアスにおける返答たいの反応の増大と関連しているという仮説のエビデンスを示す。このために、我々は健常者において恐怖顔刺激と幸福顔刺激の同定中に電気ショックを与えることで新たな機能的結合性の解析を適用した。この効果は幸福顔刺激においてはみられない情動特異的な効果であり、恐怖顔刺激に対する行動反応の速さと並行しており、特性不安と正の相関があった。我々の最初の実験で示されたように、不安によって媒介され、情動特異的で、背内側前頭前野-扁桃体の嫌悪反応の増大するメカニズムが示された。これはげっ歯類の前辺縁系-扁桃体の回路と相同回路であり、特性不安との関連が示されていることから、不安障害の脆弱性の基盤であると考えられる。本研究は、適応的な不安の重要な神経メカニズムを指摘するものであり、非機能的な不安に潜在的なつながりを示すものである。

自分の研究ではネガティブ刺激の処理に背内側前頭前野と扁桃体の結合性が示されていた。背内側前頭前野と扁桃体のサーキットはネガティブな情動処理の亢進に関わると考えていたことは間違いではなかったようだ。
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